養老孟司氏、隈研吾氏、斎藤幸平氏らが絶賛している話題書『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』──。樹木たちの「会話」を可能にする「地中の菌類ネットワーク」を解明した同書のオリジナル版は、刊行直後から世界で大きな話題を呼び、早くも映画化が決定した。待望の日本語版が刊行されたことを記念し、本文の一部を特別に公開する。
いちばん大きくて古い木がマザーツリー
「これはマザーツリー?」
風上の方角に向かって枝を伸ばし、3本並んで立っている年老いたホワイトバークパインの周りを歩きながらメアリーが訊いた。
私たちは昨夜、大学院生と、大学の非常勤講師でもあるフィルムメーカーと一緒につくったドキュメンタリー映画『Mother Trees Connect the Forest(マザーツリーが森をつなぐ)』を観たばかりで、メアリーは、この高山の木を多雨林の木と比べようとしていたのだ。
私は3本のうちでいちばん背が高い木を指差して、いちばん大きくて古い木がマザーツリーだと言った。
私はメアリーの手を摑んで樹冠の下に身をかがめ、根が近隣の木に巻きついているかどうかをたしかめた。
メアリーが、張り出した枝のいちばん外側の縁に沿って生えている一連の実生を指差した。
太い根が四方八方に伸びて絡まり合うこの雑木林の木々は、菌根ネットワークでつながっているに違いなかった。
(本原稿は、スザンヌ・シマード著『マザーツリー』〈三木直子訳〉からの抜粋です)