樹木たち同士のコミュニケーションを成立させる「地中の菌類ネットワーク」を解明した新刊マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険──。日本では養老孟司氏、隈研吾氏、斎藤幸平氏らが絶賛のコメントを寄せ、アメリカでは早くも映画化が決定しているという。同書の訳者である三木直子さんに、この本の魅力を語ってもらった(聞き手/藤田 悠 構成/高関 進)。

「次の世代にバトンを渡そう」という思い

──今回、全文を訳してみて三木さんは『マザーツリー』をどんな本だと感じましたか? 訳者だからこその発見もあるかなと思います。

三木直子(以下、三木):本書の内容をひと言でいうなら「あるすばらしい研究成果を残した女性科学者の回想録」というかんじでしょうか。

想像するに、著者のスザンヌ・シマード自身も、周囲の人たちから「書いたら?」とすごく促されながら書いた本なんじゃないかなと感じましたね。

彼女自身、定年に近い年齢ですから、最後に「次の世代にバトンを渡そう」という思いで半生を振り返り、自分のストーリーを語りたかったのではないでしょうか。

──この本の隠された魅力は、さまざまな文脈で読めるところではないかと思っています。同書にはいろんな読者が考えられそうですよね。

三木:そうですね。いわゆるサイエンス本の読者はもちろんですが、脳やネットワークに関心がある人、植物ファン、キノコファンなどの自然愛好者、あとは気候変動や環境保護に興味がある人……どこから入っても楽しめるようになっています。

がんサバイバーとしての闘病記だったり、フェミニズムの文脈だったり、LGBTQや家族愛などの方向から読む人もいるんじゃないでしょうか。

「女性ならではの苦労」が
共感を呼ぶのでは?

──私はサイエンスやSFのジャンルが好きなので、「森がインターネットのようになっている」という概要を読んだときから、一気に心をくすぐられました(笑)。

三木:いろいろな「入り口」が用意されているのは、本書の大きな魅力だと思います。

読者がそれぞれ必要としているものを読み取れるのではないでしょうか。逆に「専門的に植物や菌類について学びたい」というような方はちょっと肩透かしを食らうかもしれませんが。

とはいえ、この本の巻頭にレイチェル・カーソン(アメリカで60年代に環境問題に警鐘を鳴らした生物学者。著書に『沈黙の春』など)の言葉が引用されていることからもわかるように、著者の根底には「森を守りたい」という強い気持ちがあるのでしょうね。

本書の執筆のいちばん強い動機も「自然を守りたい」という気持ちだと思います。

──三木さんご自身は、訳者としてではなく読者として、この本のどんなところに惹かれましたか?

三木:私は著者のスザンヌと同年代なので、すごく共感する部分がありましたね。とくに、女性としてこの年まで生きてきて直面してきたいろんな出来事を読むと、なんだかすごくじんわりくるんです。

いままで私が訳した本は、どちらかというと書店のサイエンス棚に並びますが、ダイヤモンド社さんから出版されたせいか、ビジネス棚の近くに並んでいるところも見かけます。いままでこういう本を読んだことがない人、普段あまりこのジャンルを読まないような人に届くかもしれないと思って期待しています。

すでに植物に興味があるわけではない人たち、「木々が会話している」と言われて驚いちゃう人たちに届いてほしいですね。

(次回に続く)

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◎映画『アバター』原案にもなったカナダの森林学者による「世紀の大発見」とは?