「世界史とは、戦争の歴史です」。そう語るのは、現役東大生集団の東大カルペ・ディエムだ。全国複数の高校で学習指導を行う彼らが、「戦争」を切り口に、世界史の流れをわかりやすく解説した『東大生が教える 戦争超全史』が3月1日に刊行された。世界史、現代情勢を理解するうえで超重要な戦争・反乱・革命・紛争を、「地域別」にたどった、教養にも受験にも効く一冊だ。古代の戦争からウクライナ戦争まで、約140の戦争が掲載された、まさに「全史」と呼ぶにふさわしい教養書である。元外務省主任分析官である佐藤優氏も絶賛の声を寄せる本書の内容の一部を、特別に公開する。今回は、ローマ史上に残る奴隷の反乱「スパルタクスの反乱」について紹介。
見世物にされるのはもう御免!
ローマ史上に残る奴隷剣闘士の反乱
紀元前73年に始まったスパルタクスの反乱は、ローマ史上に残る奴隷たちの大反乱です。当時、奴隷による反乱はイタリア半島の各地で起きていましたが、中でもこの反乱はかなり大規模なものになりました。
スパルタクスとは、この反乱を率いた訓練中の剣闘士(剣奴、グラディエーター)の名です。剣闘士たちは奴隷であり、当時ローマの各地にあった闘技場にて、猛獣や同じ剣闘士と戦わされ、見世物として働かされていました。今でもローマに残っているコロッセウムは、こうした闘技場の一つです。
この見世物は、貧しい人たちの不満を和らげるために、金持ちの貴族たちによって無料で提供されていました。食事や娯楽を提供して不満を紛らわそうとするこの慣習はパンとサーカスと呼ばれます。
剣闘士は、普段から貧しい生活を強いられ、また闘技場で戦うとなれば当然命がけです。人々の娯楽として消費され、あげくの果てに命を落とす危険性まであるとなれば、そのストレスは計り知れません。
その状況を変えようと立ち上がった人物こそ、スパルタクスでした。彼は養成所から脱走し、仲間の奴隷たちを焚き付けて反乱を起こしました。普段から養成所でビシビシと鍛えられている立派な戦士たちがまとまって立ち上がったとなればかなり強大だったはずです。加えて、スパルタクスはイタリア各地の奴隷たちも蜂起させ、ローマに大きな脅威を与えました。
反乱で名を上げたポンペイウスとクラッススが台頭。第1回三頭政治が始まる
この大反乱を鎮圧すべく立ち上がったのは、閥族派スラの後継者で軍人としても優れていたポンペイウスと、大富豪として名を馳せていたクラッススでした。彼らはいずれも優秀な軍隊を引き連れてスパルタクスたちと激突しました。
反乱軍は最初こそ善戦しましたが、長期戦の末に次第に疲弊していきました。そして直接対決の結果、スパルタクスは戦死し、残る奴隷たちも一掃されてしまいます。こうしてローマを震撼させた大反乱を見事鎮圧したポンペイウスとクラッススの株は急上昇しました。これを機に2人は、一気に政治家として取り立てられることになったのです。
さらに同じ頃、ローマにもう一人の有力者が登場します。それが、あらゆる面で後世まで名を残すことになるカエサルです。
ポンペイウス、クラッスス、カエサルの3人は、互いに無用な争いは避けたいと考えていました。当時の政治の中心は元老院であり、一人や二人の有力者が物申したところで状況は変わらなかったからです。そこで3人は密約を結び、協力関係を形成します。
これは第1回三頭政治と呼ばれ、まとまった3人は元老院と十分対抗しうる勢力となったのです。しかし結局、3人は権力を争ってぶつかることになるのでした。
(本原稿は、『東大生が教える戦争超全史』の内容を抜粋・編集したものです)
東大カルペ・ディエム
現役の東大生集団。貧困家庭で週3日アルバイトをしながら合格した東大生や地方公立高校で東大模試1位になった東大生など、多くの「逆転合格」をした現役東大生が集い、全国複数の学校でワークショップや講演会を実施している。年間1000人以上の生徒に学習指導を行う。著書に『東大生が教える戦争超全史』(ダイヤモンド社)などがある。