「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。
大腿四頭筋の筋力と握力が寿命にかかわっていた
私は長年、フレイル・サルコペニアの研究も行ってきましたが、国内外の研究から、明らかになってきたことがあります。それは、
「人間の寿命を決定するのは、筋力と筋肉量」であるということです。
高齢者の筋肉量と筋力を調査した研究では、70代の男女2292人を6年以上フォローし、寿命と筋肉量、筋力の関係が調査されました。
その結果、驚いたことに大腿四頭筋の筋力と握力が寿命にかかわっていたのです。CT(コンピュータ断層撮影)などで測定した筋肉量は、寿命とは関係なかったのです*12。
この調査は、海外の結果ですが、九州大学の疫学研究でも同様の結果が報告されています。久山町研究とは、日本で最も定評のある疫学研究で、1988年から2007年にかけて、2527人の40歳以上の男女を、握力の強さによって3群に分けて調査しました。その結果、握力の最も低い群と比べて、握力の高い群では死亡率が低下することがわかりました。
男性においては、総死亡率、循環器系疾患、呼吸器系疾患、その他の疾患において、女性においては、総死亡率、循環器系疾患、悪性腫瘍、呼吸器系疾患、その他の疾患において有意に死亡率のリスクが低下したのです*13。
この二つの研究で問題となるのは、握力なら男性40kg未満、女性25kg未満なのです。
筋肉内の脂肪組織量と大腰筋量の指数が、
死亡率と関係していた
その他にも、京都大学医学部から肝移植患者の術後の寿命(予後)についての検討が報告されています。本研究では、2008年1月~2013年10月までに生体肝移植を受けた成人患者200名を対象に、術前の骨格筋の質が生体肝移植後の予後に及ぼす影響について調査が行われました。
CTによって、筋肉量と脂肪量が検討された結果、筋肉内の脂肪組織量が高く、大腰筋量の指数が低い患者では、移植後の死亡率が高いことが明らかになったのです*14。
この結果を受けて、京都大学で生体肝移植を受ける患者さんたちは、懸命に筋トレに励むようになりました。
その他にも、心疾患患者2万3480人を対象とした七つの研究では、握力の度合いによって心臓死、全死亡、心不全による入院を予測できることが明らかになったのです。
これらのデータが示すことは明らかです。繰り返しになりますが、
「人間の寿命を決定するのは、筋力と筋肉量」なのです。
つまり、健康のためには、体を鍛えて筋力や筋肉量を増やすことが、とても効果的なのです。でも、なかなか運動は続かないという方々も多いと思います。
監修 大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授・医学博士 萩原圭祐