「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

糖質制限が必要な人は、どんな人?Photo: Adobe Stock

これらに該当する人は、糖質制限が必要

 逆に、糖質について真剣に考えなければいけないのは、人間ドックなどでメタボリックシンドロームの兆候を指摘された人たちです。

 この場合は当然、体重超過ですから、糖質制限ではなく、まず初めに糖質過剰の自らの食生活のスタイルを見直すことが必須です。何よりもあなたの糖質適正量を理解することなのです。

 そして、体重の減少を目指すなら、適正な糖質量を設定し、筋肉量や筋力も意識していく必要があります。

 次に、糖質を気にする必要があるのは、以下に該当する人たちです。

 ・年齢が50歳前後である
 ・空腹時血糖値が100mg/dlを超えている
 ・筋力(握力)が低下している(男性40kg未満、女性25kg未満)

 これらの人たちは、ゆるやかに糖質のとり方を変えていくことが、病気や老化予防のためにも、とても重要です。

 糖質制限は、なんとなく主食のご飯(お米)を抜けばいいと思われている印象があります。しかし、適正な糖質量を設定し、実践するときには、自己流の判断ではなく、医師や管理栄養士に相談して取り組むことをおすすめします。

50歳を境に1日の基礎代謝量は、減少する

 では、なぜ50歳前後になると糖質を気にする必要があるのかと思われるでしょうが、実は、男女ともにこの年代になると、消費エネルギーが目に見えて減少していくからです。

 1日の総エネルギー消費量は、基礎代謝量が約60%で、食事に関連した消費が約10%、身体活動量いわゆる運動が約30%と言われています*10

*10 厚生労働省 e─ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-02-004.html

 そして、50歳を境に、1日の基礎代謝量が減少します。

 男性の場合は、1530キロカロリー→1400キロカロリーへ、女性の場合は、1150キロカロリー→1100キロカロリーへと減少します。

 そうすると、それまでと同じ量を食べていれば、知らない間に太ってしまうのです。

空腹時血糖値で、がん患者の寿命を予測できる

 血糖値の正常値は、一般的には70~110mg/dlになります。

 ですから、空腹時の血糖値が100mg/dlを少し超えていても、それは問題ないように見えます。

 あとで詳しく説明しますが、食事をとっていなくても、空腹時血糖値が100mg/dlを超えているのは、主に次の三つの理由が考えられます。

 一つ目は、筋肉量が減少し、筋肉におけるグリコーゲン(グルコースがたくさんつながった多糖類)の蓄積効果が減弱し、その結果、血液中のグルコースが筋肉に取り込まれずに血糖値が上昇する。

 二つ目は、単純に糖質の摂取が過剰であること。

 三つ目は、老化に伴う軽度の炎症があってインスリンの効果が弱くなり、糖の細胞への取り込みが低下する(インスリン抵抗性と言われます)などの可能性があること。

 がんケトン食療法を実践したがん患者さんの寿命(予後)にかかわる三つの因子の一つは、空腹時血糖値なのです。

 私たちの検討により、空腹時血糖値が90mg/dl未満の患者さんの予後は、90mg/dl以上の患者さんより良好なことが明らかになりました*11

*11 Hagihara K, et al. Promising Effect of a New Ketogenic Diet Regimen in Patients with Advanced Cancer.Nutrients. 2020;12(5):1473.DOI: 10.3390/nu12051473.

 なぜかと言えば、体に炎症がないことでインスリンの働きが維持され、それにより栄養状態がよければ筋肉量が維持されるので、筋肉に糖質がグリコーゲンとして効率よく取り込まれるからです。

 最後に、握力低下(男性40kg未満、女性25kg未満)についてですが、握力は様々な研究で、全身の筋肉量や筋力の総和を表していると考えられています。

本原稿は、萩原圭祐著『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』からの抜粋です。
監修 大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授・医学博士 萩原圭祐