「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。
糖質制限をすると筋肉量が減少する
体の冷えを訴える女性は、少なくありません。
では、なぜ体が冷えやすくなるのでしょうか?
女性の場合は、そもそも筋肉量が少ないので、糖質制限をすると筋肉量が減少する方向に向かいます。その結果、基礎代謝は低下し、冷えを感じるようになります。
そして、その状態が続くと「サルコペニア」になってしまう可能性が挙げられます。
「サルコペニア」とは、筋肉の量が減って筋力が低下している状態を指しますが、本来は高齢者で問題になるものです。
実際に、2020年に報告された研究では、糖質制限と運動を組み合わせた結果、体重やコレステロールなどの数値はよくなりましたが、筋肉量が統計学的に有意に減少したことが報告されています*7。
この研究が示すのは、筋肉量が減らないように運動を組み合わせても、筋肉量が減ってしまったということです。つまり、自己流で安易に糖質制限ダイエットを行うと、健康の維持に必要な筋肉量が十分に保てなくなる可能性があるのです。
それでは、基礎代謝が低下し、リバウンドしやすい体質を招いてしまいます。結果的に基礎代謝の低下が、冷えも招くということです。
産後の女性の半分ぐらいがサルコペニア状態に
筋肉量が減って筋力が低下するサルコペニアですが、筋肉量は、従来は40歳くらいから減少すると言われていました*8。
しかし私たちの研究では、若い人でも筋肉量が足りなくて、サルコペニアに近い状態になっていることが明らかになりました。
私の研究室は、京都大学大学院の明和政子研究室と子育て世代の母子を対象に共同研究をしています。20代~30代の子育て世代のお母さんを調べたところ、産後の女性について驚いたことに、半分ぐらいの方がサルコペニアに近い状態になっていたのです*9。
おそらく、元々筋肉量が少ない状態で、妊娠出産を経験し、さらに筋肉量が減ってしまったことが予想されます。
十分な筋肉量がないと、当然、疲れやすくなり、一日中動き回る子どもたちにもついていけなくなります。この状態では、子育てにも影響が出てくるのではないかと、とても心配になるような結果でした。
この研究結果が意味することは、出産後は、体の回復を目指して、十分な栄養を摂取し、同時に筋力・筋肉量をしっかり戻す必要があるということです。
高齢になっても元気でいるためには、
筋肉の「貯筋」が大切
現在、日本は少子超高齢社会を迎えています。サルコペニアは、フレイル(要介護の予備軍)を招くと言われています*8。
高齢になっても元気でいるためには筋肉量が大切で、「貯筋」ということも言われているくらいです。
つまり、若い時から筋肉量が減ってしまうと、一段と筋肉量が減ってしまう高齢者になったときに、簡単にまともに動けない体になってしまうのです。
少子超高齢社会では、これからは高齢になっても働いて、介護・寝たきりを予防する必要があります。そのためには、若い時から筋肉量が減らないような生活習慣や食習慣が必要になっていきます。
このままでは、日本の将来がとても心配になります。
ですから、子育て世代においても、無理に糖質を制限する必要はないと思われます。
監修 大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授・医学博士 萩原圭祐