職場で困っている人を見かけても、「おせっかいだったらどうしよう…」と躊躇したり、「たぶん大丈夫だろう…!」と自分に言い訳したり……。
気づかいをするときには、つい「心の壁」が現れてしまい、なかなか一歩が踏み出せないことが、あなたにもあるのではないでしょうか?
この連載では、「顧客ロイヤルティ(お客さまとの信頼関係づくり)」をベースに、ビジネスセミナーへの登壇やコミュニケーションスキルの研修講師を通して、全国200社・2万人以上のビジネスパーソンに向けて教えてきた『気づかいの壁』の著者、川原礼子さんが、「気がつくだけの人」で終わらず、「気がきく人」に変われる、とっておきのコツをご紹介します。

部下への「叱り方」が抜群にうまい人は、どんな言葉を選ぶ?Photo: Adobe Stock

ミスを隠す部下の心理

 パワハラの概念が浸透し、叱ったり叱られたりする場面が減ったように感じます。
 若い人たちが役職につきたくない理由の第1位は、「責任が大きくなるから」だそうです。

 責任には、部下が大きな失敗をしたときのフォローと同時に、「指導すること」「叱ること」も含みます。
 それを聞くと、気が重いと感じる人も多いと思います。

 しかし、若い人が仕事を覚えるために、誰かがやらないといけない役割です。
 ポイントさえ押さえれば、「叱ること」は有効な方法であることを知りましょう。そうすることで、まずは自分の心の壁を越えられます。

 たとえば、ダメなところを何度も指摘してくる上司がいるとします。
 こうした上司のもとで育つと、働く目的が「怒られないようにするため」になってしまいます。上司の顔色をうかがい、ミスをなくしていけばいいだけなのに、失敗を隠すようになるのです。

 一方で、相手に必要以上に気をつかって、

「私も人のこと言えないんだけど……」
「そういうことは誰にもあることなんだけれども……」

 と、前置きばかりでハッキリと言ってくれない上司もいます。
こうした上司のもとで育つ若手は、叱られている実感が湧きませんし、大したことしていなかったんだと間違った認識を持つこともあります。いずれも、叱り下手です。

「少し言い足りない」「また言いたい」
という気持ちをおさえる

 叱る目的は、行動を変化させることです。
 起きたことから学んで、二度と同じ過ちを繰り返さない行動ができるようにさせることです。
 改善点が明確になっているのであれば、叱責も「短く」です

 ゼイガルニク効果という心理現象があります。人は達成してやり遂げたことよりも、達成できていないことや中断されたことのほうが、より強く記憶に残るのだそうです。
 上司や先輩からの叱責も、物足りないほど短いほうが相手は気になるものです。

「原因は、『事前の確認不足』でしたね。気づいた時点で相談してほしかったです。そうしたら私もフォローができたので。次回からそうしましょう」

 これで10秒です。そこから先は、二度と繰り返さない策を本人に考えさせます。
 上司からすると、少し言い足りないくらいがちょうどいい長さです。

 そして、一度叱ったら、その内容には二度と触れないことです。
 とっくの昔に改善したことを「前もあったよね?」などと蒸し返されて、嬉しい人はいません

「いやいや、うちの後輩は、短い叱責ではとても叱り切れないようなミスをするんだよ」と思った人は、その原因は教育やマネジメントなど、当事者以外にあるかもしれません。
 自分が気持ちよくなるような叱り方をして、相手の壁を越えないように注意しましょう。

川原礼子(かわはら・れいこ)
株式会社シーストーリーズ 代表取締役。
元・株式会社リクルートCS推進室教育チームリーダー。
高校卒業後、カリフォルニア州College of Marinに留学。その後、米国で永住権を取得し、カリフォルニア州バークレー・コンコードで寿司店の女将を8年経験。
2005年、株式会社リクルート入社。CS推進室でクレーム対応を中心に電話・メール対応、責任者対応を経験後、教育チームリーダーを歴任。年間100回を超える社員研修および取引先向けの研修・セミナー登壇を経験後独立。株式会社シーストーリーズ(C-Stories)を設立し、クチコミとご紹介だけで情報サービス会社・旅行会社などと年間契約を結ぶほか、食品会社・教育サービス会社・IT企業・旅館など、多業種にわたるリピーター企業を中心に“関係性構築”を目的とした顧客コミュニケーション指導およびリーダー・社内トレーナーの育成に従事。コンサルタント・講師として活動中。『気づかいの壁』(ダイヤモンド社)が初の著書となる。