香川真司選手の“不思議な笑み”

 2月13日夜、ある勉強会で日中尖閣問題に関するプレゼンテーションを終えた私は、仲間たちと一緒にハーバード大学キャンパスエリア内にある、「ジョン・ハーバード」というBARに足を運んだ。ハーバードの学生が議論を交わす場になっていて、私もよく利用する(体調管理という観点から最近極力飲酒を控えているが)。

 その夜、たまたま絶妙の角度でテレビが観られる席に着いた。スクリーンにサッカーの試合が映し出されていることを確認した次の瞬間、ある日本人が懸命にボールを追う姿が目に飛び込んできた。

 香川真司――。

 欧州チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦、マンチェスター・ユナイテッド(MU)VSレアル・マドリード(RM)。世界最強フットボーラ—の一人と称されるクリスティアーノ・ロナウド選手(RM)らを相手に、23歳の若武者が闘いを挑んでいる。MUトップ下の先発選手として。

 ハーバードの学生たちもスクリーンを凝視し、「Kagawa!」とエールを送る。そんなKagawaと同じ日本人である私。鳥肌が立った。

 試合は1対1のドロー。後半19分にピッチを退いた香川選手は、試合後、悔しさに笑みが入り混じった表情を見せつつ、「現実を知りました」とつぶやいて会場を後にしたという(Number Web欧州CL2月14日記事「香川真司が見せた“不思議な笑み”。レアル戦で受けた世界最高峰の衝撃。」)

笑わずにはいられない“あの感覚”

 自分よりも5歳若い香川選手の“悔しさと楽しさが入り混じった”笑みと“現実を知りました”という言葉の意味が、私には痛いほどよく分かる。祖国を飛び出して10年、私も香川選手と同じような感覚を、何度も味わってきたからだ。