オバマを感じるために
1月15日正午、米シカゴ、オヘア空港から電車に乗る。ブルーラインとグリーンラインを乗り継ぎながら、私は電車の中で身をすくめていた。
「治安、悪いな……」
ハーバード大学のあるケンブリッジで過ごす私にとっての、初めて訪れるシカゴの第一印象だった。貧富の格差は誰の眼にも明らかだった。
電車に乗って1時間ほど経って、目的地の「51st」駅に到着、下車。切符の料金は約2ドルだった。
51ストリートに沿って、ワシントン公園を右手に見ながら歩く。気温はマイナス5度くらいか、止まない風が身体を冷たくさせる。坂道はほとんどない。街の区画は東西南北がはっきりしている四角い構造で、分かりやすかった。9年間住んだ北京の情景が脳裏に浮かんだ。
しばらく歩いていると、年配の黒人グループ4人と若い黒人グループ4人がもめていた。どうやら、若者が年配者をからかったようだった。暴力はなかったが、前者が面子を潰されたのか、猛烈に言い返している。口にしているのが標準的な英語ではないことだけは聞き取れた。
私は勇気を振り絞って年配者のほうへ近づいていき、「すいません。この道をまっすぐ行けばHyde Parkに着けますか?」と聞いた。年配者の一人は機嫌が悪かったのか、「おまえ、見ない顔だな。こんなところで何やってんだ」という面持ちで突っかかってきたが、私は冷静に言い返した。
「自由な国アメリカでは道を聞くことすら許されないんですか? 違法行為をしているつもりはない。私はただオバマ大統領が生活したエリアを歩いてみたいだけだ」
シカゴに来て気づいたのだが、“オバマ”という名前を出した瞬間、多くの人の機嫌は180度好転する。私が話しかけた年配の黒人男性もそうで、すぐになまった英語で「Oh, you like Obama, good, good man, over there, just go straight, man」と教えてくれた。私は一人一人と握手をして、「You are men, too」とだけ言ってその場を後にした。