「宇宙人って、もう地球にきているの?」「宇宙はどこから生まれたの?」
だれもがいちどは考えたことがある宇宙の謎に、スタンフォード大学卒の人気マンガ家とカリフォルニア大学教授の最強コンビが答える『この世で一番わかりやすい宇宙Q&A』(ジョージ・チャム、ダニエル・ホワイトソン著、水谷淳訳)が発売された。
本記事では、本書の疑問のひとつ『どうしてテレポーテーションできないの?』の内容を全3回で公開する。(前編はこちら)
光の速さで移動すればいいんじゃないの?
瞬間的に別の場所に現れたり、空間を近道したりすることはできないとしても、少なくとも最高速度でどこかに行くことはできないの?
秒速3億mっていう宇宙の最高速度を出せれば、通勤時間も1秒以内に短縮できるし、星々にも数十年や数千年じゃなくて数年で行けるだろう。光の速さでテレポーテーションできただけでもすごいじゃないか。
そのためには、君の身体を目的地めがけて光の速さで押し出すようなマシンさえあればいいんじゃないの?
残念なことにそのアイデアには大問題がある。
君の身体が重すぎるんだ。あまりにも重すぎて光の速さで移動するのは絶対に無理だ。
第1に、君の身体の全粒子(ひとまとまりのままでもバラバラでも)を光の速さに近いスピードに加速するだけでも、ものすごい時間とエネルギーが必要だ。
第2に、光の速さに到達するのは絶対に不可能だ。どんなにダイエットしたりジムに通ったりしても関係ない。質量のある物体を光の速さで飛ばすことは絶対にできないんだ。
君の身体を作る原子の部品、つまり電子やクォークなどの素粒子は、質量を持っている。だから動かすためにはエネルギーが要る。速く動かすためには大量に必要で、光の速さまで加速するためには無限の量が必要だ。超高速で飛ぶことはできても、光の速さに到達するのは絶対に不可能なんだ。
だから、いま君の身体を作っている分子や素粒子を実際にテレポーテーションさせることは絶対にできない。瞬間的にも不可能だし、光の速さでも不可能だ。光の速さで君の身体がどこかに転送されるなんてありえない。君の身体の全粒子を光の速さで動かすなんて不可能だからだ。
じゃあテレポーテーションも不可能なの? そんなことはないんだ!
一つだけ方法が残っている。ただしそのためには、“君”っていうのが誰なのかを広い心でとらえないといけない。
君の身体、分子、素粒子を転送するんじゃなくて、君っていう概念だけを転送したらどうだろう?
君は情報だ
光の速さでテレポーテーションする1つの方法は、君の身体をスキャンして光子のビームとして送信することだ。光子は質量がないから、宇宙の最高速度で飛んでいける。それどころか光子は光の速さでしか飛べない(ゆっくり動く光子なんてものはどこにもない)。
光速テレポーテーションの基本的な手順は次のとおり。
ステップ1:君の身体をスキャンして、すべての分子や素粒子がどこにあるかを記録する。
ステップ2:その情報を光子のビームとして目的地に送信する。
ステップ3:その情報を受け取り、新たな素粒子を使って君の身体を再び作る。
そんなことできるの?
スキャン技術も3Dプリンターも信じられないほど進歩している。いまではMRIで君の身体を0.1mmの解像度でスキャンできる。脳細胞1個くらいのサイズだ。また、がん治療薬の試験のために3Dプリンターで生きた細胞の塊(“オルガノイド”っていう)が作られていて、しかもどんどん複雑なものが作れるようになっている。
原子一個一個をつかんで動かせるマシンも作られている(走査型トンネル顕微鏡を使う)。だから、いつか身体全体をスキャンして3Dプリントすることもできるようになるかもしれない。
でも最大のハードルは、技術的な問題じゃなくて哲学的な問題だろう。
君のコピーを作ったとして、それは本当の君なんだろうか?
いま君の身体を作っている素粒子は、別に特別なものでも何でもない。同じ種類の素粒子は全部同じだ。電子はどれも完璧に同じだし、クォークもそうだ。宇宙工場から個性とか別々の特徴とかを持って作られてくるわけじゃない。
2個の電子や2個のクォークの違いは、どこにあるかと、どんな素粒子とつるんでいるかだけなんだ。でも君のコピーはいったいどこまで君なんだろう?
それは2つのことにかかっている。1つめはスキャンとプリントの解像度。細胞を読み取ってプリントすることはできる? 分子は? 原子、さらに一個一個の素粒子は?
もっと大きな疑問は、君の“君らしさ”がどこまで細かいところにかかっているかだ。コピーを“君”とみなすためには、どんなレベルの細かさまで極めないといけないんだろう?
実はまだ答えは出ていなくて、それは君の自意識がどれだけ量子的なのかによるらしい。