新年度を迎えたこの時期、新たな環境に身を置いた人も多いのではないだろうか。学生であれば入学式、社会人であれば仕事の異動や転勤、様々な変化がある。希望通りの進路に就けた人もいれば、思わぬ結果になって新たなはじまりを迎えた人もいるだろう。この春、過去の「選ばれなかった」ことをテーマにした書籍『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(阿部広太郎)が刊行された。本文より、一部抜粋、改訂して紹介する。
これはなぞなぞなのか?
就職活動におけるかつての実体験を紹介したい。志望する会社の面接が一次、二次と通過して、いよいよここが最後の難関と呼ばれる面接まで来たときだった。
いい感じに進む面接の中で、そろそろ終わりかと思ったときにその質問は飛び出した。
「ライオンとワニ、どっちが強いと思う?」
僕は目を丸くする。
「え、何だそれ? これはなぞなぞなのか? 一体何なんだ……」
頭をフル回転させて、はたと気づく。おそらく、この問いに正解なんて多分なくて、きっとどんな風に答えるかを見ているのだろう。
「ライオンは群れで動きます。チームワークを駆使しながらワニに立ち向かうことができるので、強いのはライオンだと考えます」
その返答に対して特にリアクションはなく、面接官は「ありがとう」と笑顔で言った。
幸運にも「通過」の連絡を受けたが、他にはどんな答え方があったのだろうかといまだに時折思い出しては考えてしまう。あなたなら何と答えるだろうか?
大事なのは「納得」できるかどうか
後日、ワニも群れで動くと知って軽くめまいがしつつ、改めて考えた。
短い面接の時間で自分という人間のすべてを理解してもらえるなんてことはありえない。けれど「なぜこの会社を受けたのか?」という志望動機を問われて「おお、なるほど!」と納得してもらえれば関係は次へとつながっていく。
学校のテストには正解がある。点数で返ってくる。それはわかりやすい。
でも、社会に出るとなると急に「君はどうしたい?」「君の考えを聞かせてほしい」となる。それで「選ばれる」「選ばれない」が決まってしまう。
大事なのは、その場において「納得」できるかどうか、だ。
「ライオンとワニ」の質問は奇問ではあるけれど、納得感をもって自分なりの考えを伝えられるかどうかを見られていたのだと今では思う。
面接の場では、自分自身も、相手の面接官も納得できること意識する。顔や体は雄弁だ。嘘をついてしまうとどこかで浮き彫りになってしまう。そこに「納得」があるか? それを意識するだけでも就職活動における受け答えも変わってくるかもしれない。
1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。中学3年生からアメリカンフットボールをはじめ、高校・大学と計8年間続ける。2008年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、電通入社。人事局に配属されるも、クリエーティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」篇の制作に携わる。尾崎世界観率いるクリープハイプがフリーマガジン「R25」とコラボしてつくったテーマソング「二十九、三十」を企画。作詞家として「向井太一」「円神-エンジン-」「さくらしめじ」に詞を提供。自らの仕事を「言葉の企画」と定義し、エンタメ領域からソーシャル領域まで越境しながら取り組んでいる。パーソナリティーを務めるラジオ番組「#好きに就活 『好き』に進もう羅針盤ラジオ」はAuDee(オーディー)で配信中。2015年から、BUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」を主宰。オンライン生放送学習コミュニティ「Schoo」では、2020年の「ベスト先生TOP5」にランクイン。「企画する人を世の中に増やしたい」という思いのもと、学びの場づくりに情熱を注ぐ。著書に『待っていても、はじまらない。ー潔く前に進め』(弘文堂)、『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。