4月になり新年度を迎えるこの時期、新たな環境に身を置く人も多いのではないだろうか。学生であれば入学式、社会人であれば仕事の異動や転勤、様々な変化がある。希望通りの進路に就けた人もいれば、思わぬ結果になって新たなはじまりを迎える人もいるだろう。この春、「選ばれなかった」ことをテーマにした書籍『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(阿部広太郎)が刊行された。「選ばれなかった」ことの連続がこの本につながったという話を著者本人が書き下ろしました。

一流と二流の書き手の違い。編集者から言われた言葉とは?Adobe Stock

「見つかりたい」と思ったことはありますか?

 20代中盤。駆け出しのコピーライターである自分のことなんて誰も知らない。何かしらの目に見える結果を出さなければ、他部署への異動だってありうる。気合と野心だけは一人前で、こんなにも強い気持ちを持っている自分を見つけてほしい。灼熱のマグマのような思いを抱えた当時の自分は公募の広告賞だけではなく、作家の賞にもエントリーしていた。

 原稿用紙にただ書いて応募するだけでは埋もれてしまうのではないか? そう思い、親友のデザイナーを巻き込んだ。言葉とデザインを掛け合わせた小冊子を完成させ、エントリーするという方法にチャレンジした。

 その結果……選ばれなかった。何も連絡は来なかった。ほのかに期待をしていただけにつらかった。その時に僕が書いたテーマは「後悔」だった。僕自身、あまり読んだことのないテーマだった。

「だれかの後悔を読んで、人は前に進めたりしないだろうか」。そんな仮説が自分の中にあり、ショートストーリー集をつくったのだ。それから日常の忙しさに飲み込まれていくものの、この「後悔」というテーマはずっと頭の片隅にあった。

編集者は「それです!」という顔をした

 それから月日は流れて、冊子の内容をnoteにアップした。あの時につくった小冊子を信頼する人に見せて、「いいね!」と言ってもらえたことに勢いをつけて、公開しようと思ったのだ。

 その内容を見て、「本にできるかも」と連絡をくれた編集者がいた。その編集者は、2020年に刊行した『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』という本を一緒に作った編集者の亀井さんだった。

 最初は半信半疑だった。果たして本当に形になるのか? どうやったら一冊の本として完成するのか? 登場人物を決めて物語形式にしてみるやり方、ある人の一生を描きながら一冊にするやり方、「もしタイムマシンがあるとしたら、あなたはいつに戻りたいですか?」という問いを立てるやり方、打ち合わせを重ねて、いろんなやり方を議論した。

 しかしながら、僕の仕事が忙しくなってしまい、時間がなかなか取れず、決定打も生まれず、本の執筆は進まなかった。

 ただ、あの時、「後悔」に何かあると思った気持ちに嘘はなく、何とかして形にしたいと思った自分がいた。そんな時に、編集者の亀井さんから連絡をもらった。

「あの日、選ばれなかった君へ」というテーマはどうでしょうか?

 メールにはこう書かれていた。

 ほとんどの人は、人生のさまざまな局面で「選ばれない」経験をするはずです。落ち込んだり、自己嫌悪に陥ったり、自暴自棄になったりするはずです。そのことをどう受け止め、どうやって再出発したのか、どうやって自分を立て直したのか。あの日選ばれなかった自分に、今の自分が声をかけるとしたらどんな言葉でしょうか?

 まずは会いましょうと僕は連絡をし、仕事終わりに喫茶店に集合した。そこで、受験、部活、大学、仕事、恋愛……これまでの自分の選ばれなかった話、そして今も後悔している話を話し続けた。編集者の亀井さんは「それです!」という顔をしていた。自分の中でも、「後悔」と「選択」は密接な繋がりがあると感じ、章立てを決めて、書きはじめることになった。