アベノミクスへの期待から、顕著な円安・株高傾向が続き、金融マーケットは活気を取り戻している。しかし、外交官として日本と諸外国との駆け引きの現場を見続けてきた原田武夫・原田武夫国際戦略情報研究所CEOは、円安に沸く日本に警鐘を鳴らす。現在の円安トレンドは、欧米が仕掛ける「通貨戦争」の前哨戦であり、日本は円高反転を狙うリスクの高いゲームに巻き込まれてしまいかねないというのだ。日本経済復活への期待を抱く企業や投資家は多いと思うが、現在起きている状況を多角的に分析し、バランス感覚をもって今後の戦略を練ることも必要だ。原田氏の持論に耳を傾けてみよう。
「知る者は言わず、言う者は知らず」
円安・株高で浮かれてばかりでいいのか
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)代表取締役(CEO)。東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務公務員Ⅰ種職員として入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に自主退職。情報リテラシー教育を多方面に向けて展開。自ら調査・分析レポートを執筆すると共に、国内大手企業などに対するグローバル人財研修事業を全国で展開。学生を対象に次世代人材の育成を目的とする「グローバル人財プレップ・スクール」を無償で開講。著書に『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』(徳間書店)などがある。
「知る者は言わず、言う者は知らず」
先日、東京・芝にある芝大神宮を参拝したときに境内で見つけた言葉だ。マーケットと外交、そして国内外情勢の狭間を歩いている私からすると、まさに「そうだ」と大きく頷いてしまう言葉だと思った。
だが哀しいかな、忙しい日常を過ごしているとどうしてもこのことを忘れてしまう。そして「その発言者が学者として有名だから」「マスメディアが皆、その発言者を取り上げているから」といった理由で、世の中で大勢を占めている議論を鵜呑みにしてしまう。
特に欲に駆られているときが一番危ない。やれアベノミクスだ、株高だ、円安だなどと大騒ぎしているときこそ、危険なのである。
一見すると非常に複雑に見える金融マーケットと国際情勢。これら2つに多くの日本人が苦手意識を持つ共通の理由がある。それはどちらも「イロハのイ」を学校で習うことはないという点である。
そのため、どうしても安易に「専門家」と称する人たちの言葉に頼ってしまう。そうすることによって、失敗してしまってからでは遅いのである。大切なことは、金融マーケットにしろ国際情勢にしろ、「己の頭」で考えること、これしかない。