健全な脳の機能維持には大規模ネットワークをバランスよく働かせることがポイント。だから、脳にとってゲームは害悪とは言い切れない(写真はイメージです) Photo:PIXTA
前回の記事では、脳の老化をなるべく抑えるためには「脳の二相性」がポイントになるとお伝えしました。今回はその「脳の二相性」とはいったい何なのか、『脳の寿命を決めるグリア細胞』(青春出版社刊)から抜粋して紹介します。
ぼーっとしているときに活性化する脳の領域がある
脳には2つの領域があることをご存じでしょうか。
まずは言語機能のように高度な認知機能を伴う活動や、課題をこなす時などに活性化する脳領域について。こちらは脳の広い範囲を長い軸索によって結びつけるネットワークのため、「大規模ネットワーク」と呼ばれており、これまでに見出された多くが、種々の認知機能の組み合わせでありました。
何か目的を持って意識を集中させて作業するときに必要な「集中系」と呼ぶことにしましょう。
「集中系」の代表としては、前頭頭頂葉外側皮質を中心とした中央実行系ネットワーク(CEN)と呼ばれる神経回路があり、集中して何か目的を持った活動をしているときに活性化することが示されています。
しかし、驚くべきことに、これら大規模ネットワークの中で最大のものは、“目的を持った活動時には抑制される”ネットワークだったのです。
集中系が働いているときに抑制され、何もしていない休息状態で活性化している領域はデフォルトモード・ネットワーク (DMN)と名づけられました。「集中系」に対して「非集中系」とも呼べる働き方をする領域です。
この“何もしていない状態”というのは、睡眠時を指しているのではなく、「海を眺めながらぼーっとしている」というような、覚醒はしているが何か目的を持った活動はしていない状態を指しています。
覚醒して課題をこなしているときに活性化していなくても、実は脳から見れば何もしていないのではなく、脳にとって何か重要な機能を行っているのでしょう。それは、おそらく無意識の領域にあると考えられます。
脳の広範囲な領域を結び、そのうちのどこかが集中的に働くわけではない、という意味合いから「集中系」に対応して「分散系」と呼ぶことにします。
「何もしないこと」こそが新しい発想を生む
そして、特に強調しておきたい点として、複数の部位が同時に活性化することで生まれる創造性があります。創造性とは、過去の経験や記憶を組み合わせることによって新たな感覚や概念を生み出すことです。何かに集中して作業を行うことは優れた生産性をもたらしますが、思わぬ独創的なアイデアが生まれるのは、ぼーっとして、少なくとも表向きは何も考えていないとき、という経験は皆さんにもあるのではないでしょうか。
何かを突き詰めて考えていくと、考えても、考えても先に進まない、壁に当たってしまうときが少なからずあると思います。そういったときに一旦その課題から離れ、力を抜いて非集中の時間を作るのです。分散系を活性化させるのです。すると、朝目覚めたとき、お風呂に入っているときなど全く思いがけない瞬間にひらめくことがあります。
つまり、何かを集中して行っているときは、集中系以外の部位が抑制されており視野が狭い状態になっていますが、特に何もしていないときには分散系によって脳の広範な部位が活性化する余地が生まれるということです。その結果、思わぬ記憶・情報同士が結びついて新たなものの見方や新たな発想が生まれてくる可能性が高まるのです。
脳にとってゲームは害悪とは言い切れない理由
さてこのように、緊張感を持って何か目的に向けて活動をするときに活性化する「集中系」と、明らかな目的を持った活動時には抑制され、弛緩した状態で活性化する「分散系」の2つの領域が脳にはあると考えてください。
つまり、この集中系と分散系は片方が活性化しているときは、もう片方が抑制されている、という相互抑制的な関係にあるということです。言い換えれば、集中系と分散系は連動しており、常に助け合う存在である、ということです。
そして、ここが重要な点なのですが、分散系を抑制する、つまり休ませるためには、睡眠をとることよりも、何か作業に集中するのが最も効果的であるという点です(深いノンレム睡眠もDMNを休ませますが、レム睡眠では逆に活性化することになるため)。
DMNの過活動はうつと深い関係があるため、うつの治療を考えるとき、何か集中して取り組める対象を持っているかいないか、という点は大きな差につながってくるはずです。
大好きな趣味があるとか、また、以前ならテレビゲーム、今ならスマホでゲーム、なども集中系と分散系のバランスの中で行うなら、うつや過度の精神的ストレスに対抗するための有効な手段となるでしょう。
人間が社会の中で生きていくためには、課題に集中的に取り組んで成果を出すことが必要です。ですから集中系の重要さは論を俟(ま)たないのですが、一方の分散系の重要性は目に見えてきません。記憶の統合・整理、創造性の発露といった現象は、ある程度長期的に見ないと評価できない点だからです。







