自動車販売業とともに赤字を埋めるのは、静岡県で33店舗を展開する「しずてつストア」を中心とした流通業が売上高約446億円(2022年度、以下同)、営業利益約4.4億円。不動産は売上高約118億円、営業利益9.1億円だ。

 また県内で不動産の建築および解体工事を行う建築業は売上高約48億円と小さいが、利益率は高く、約3.5億円を稼いでいる。計約37億円の営業利益で、運輸業とレジャー業の約17億円の営業損失を埋め、連結営業利益は約19億円を確保している。

 愛媛県松山市を中心に鉄道3路線と路面電車を運行する伊予鉄道を中核とした伊予鉄グループは売上高、営業利益とも流通部門の比率が大きい。同社の流通部門は伊予鉄が66%、高島屋が33%出資する子会社、伊予鉄高島屋と自動車販売修理業から構成される。

 2018年度は松山市駅併設の「いよてつ高島屋」を中心に、愛媛県内に9店舗のサテライト店(支店)を展開する百貨店業が売上高約343億円、商用車を取り扱う愛媛日野自動車、マツダ車を取り扱う伊予鉄オートからなる自動車販売修理業が約90億円で、流通部門全体の売上高約416億円は、連結売上高約592億円の70%に達していた。

 しかし、コロナ禍で百貨店の業績が悪化し、2020年12月から2021年1月にかけてサテライト店3店舗を閉鎖。また日野自動車の排気ガス・燃費データ改ざん問題で生産停止の影響も受け、2022年度は百貨店業の売上高が約110億円、自動車販売修理業は約46億円、計約150億円まで縮小し、連結売上高に占める割合も50%まで低下した。

 ところが業績への影響は軽微だった。流通部門の営業利益は、2018年度の約8.3億円から2022年は約7.5億円とほとんど変わっておらず、スリム化によってむしろ筋肉質になったと言えるだろう。相対的に運輸部門は13%から22%に上がった。

 伊予鉄は、これまで取り上げた3社とは異なり運輸部門が黒字である。2018年度の売上高は約80億円、営業利益は約5.9億円で、2022年度も売上高約64億円に対して1.7億円の営業利益を確保している。

 ただ、人口減少やエネルギー価格の上昇が進む中、2022年2月に分岐器の破損で脱線事故が発生するなど、設備更新の必要性が高まっている。鉄道、バスの持続的な経営を図るため、今年10月に鉄道とバスの運賃改定を行う予定だ。同社は2021年に鉄道、2022年にバスの運賃改定を行っており、今後の事業の在り方を模索している段階と言えるだろう。

 一癖も二癖もある地方私鉄をもっと紹介したいが、紙幅の都合上、このあたりで締めたいと思う。ただでさえ経営環境が厳しかった地方私鉄に襲いかかったコロナ禍。大都市圏からは見えにくくても、地域を支える彼らが生き残りに向けて必死に奮闘していることだけは覚えておいてほしい。