
米ワイオミング州のジャクソンホールで毎夏開催される経済会議は、世界の中央銀行の総裁が集い、市場関係者も注目する一大イベントだ。今年は米連邦準備制度理事会のジェローム・パウエル議長が利下げを示唆したとして、株価が急騰した。前日本銀行総裁の黒田東彦氏が執筆するダイヤモンド・オンラインの連載『黒田東彦の世界と経済の読み解き方』の今回のテーマは、ジャクソンホール会議。世界の中銀総裁は会議をどう活用しているのか。
会議の目玉はFRBパウエル議長の講演
9月利下げ示唆とされ株価は急騰
米ワイオミング州のジャクソンホールで毎年夏に開かれる「ジャクソンホール経済会議」は、主要国の中央銀行総裁やエコノミストを集めて金融政策について議論する国際コンファレンスである。今年も例年のように米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演(動画公開)があり、日本銀行の植田和男総裁も参加(スピーチテキスト公開)された。
今年の最大の呼び物は、ジェローム・パウエルFRB議長が、9月の金利引き下げを示唆するかどうかだった。これは、ドナルド・トランプ米大統領が、しきりに金利引き下げを要求するなかで、FRB議長としてどのような対応をするかが焦点になったのである。
パウエル議長は、「短期的にはインフレリスクは上昇に傾き、雇用リスクは下方に傾いている。困難な状況だ」と述べつつ、「ベースラインの見通しとリスクのバランスの変化により、政策スタンスの調整が必要になるかもしれない」と述べただけだったが、マーケットは9月に0.25%の金利引き下げを示唆したと受け取り、株価は急騰した。
また、植田総裁が、「大きな負の需要ショックが生じない限り、労働市場は引き締まった状況が続き、賃金には上昇圧力がかかり続けると見込まれる」と語ったことと合わせて、日米金利差縮小意識からドル安円高が進んだ。
このジャクソンホール会議には、私も日銀総裁の折に、何度か参加した。印象に残っているのは、会議場にたどり着くのが大変だったことだ。東京から何度も航空機を乗り継ぎ、やっとジャクソンホール空港に着き、そこから車に乗り換えて1時間ほどでようやくジャクソンホールの会議場に到着するのだ。
ロッジのような部屋に荷物を置いて会議場に行くと、すでに多くの中央銀行総裁が集まっており、雑談を交わして会議に参加したことを覚えている。