「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!
大学に意味はあるのか
知識社会がますます高度化している以上、大学院に進んで修士や博士の肩書を獲得した方がいいのだろうか。
アメリカでは婚活サイトのプロフィール欄に「大学院卒」と書いた男性は、女性からより多くのリプライをもらえるというデータがあるから、この戦略に効果があることは間違いない。メリトクラシーの社会では、学歴はさまざまなところでアドバンテージを発揮するのだ。
しかしここでも、トレードオフの原則が立ちふさがる。現役で大学に入って4年で卒業すれば22歳で社会に出ることができるが、博士号まで取得しようとすると20代半ば、あるいは30歳を過ぎても大学で過ごすことになる。
修士号や博士号は、これだけの年月を埋め合わせるだけの社会的・経済的な利益をもたらしてくれるのか。とりわけ女性の場合、妊娠・出産には生物学的な限界があるので、これは深刻な問題になる。
人的資本として高く評価されるのはマネタイズできる学歴だけなので、工学系・技術系を中心とした理系の修士・博士は採用時の収入に直結するとしても、文系では人的資本を形成できるのは経済学など一部にとどまるだろう。企業が採用したがらない研究者のタマゴは貧困のままで、これでは逆に人的資本を毀損してしまっている。
それに加えて近年、シリコンバレーから「大学で時間を浪費することに意味があるのか」との批判が出てきた。アインシュタインが特殊相対性理論など4つの革命的な論文を発表した「奇跡の年」は1905年で、20代半ばだった。将棋や囲碁と同様に、数学や物理学の分野では、高いパフォーマンスを発揮できるのは20代か、遅咲きでも30代半ばまでとされている。
テクノロジー系のベンチャーでは、中高年より若者の方が成功しやすいのは明らかで、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズをはじめ、グーグル、アマゾン、フェイスブックの創業者もみな野心に満ちた賢い若者たちばかりだ。
このようにしてベンチャー投資家のピーター・ティールは、「20 under 20」という奨学金プログラムを始めた。