「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】がんを持ちながら、気づくことなく人生を過ごしている人もいるPhoto: Adobe Stock

ラテントがんとは、
死後の解剖で初めて見つかるがんのこと

 ここまで様々な患者さんを紹介したように、がんケトン食療法を受けている多くの患者さんは、がんと共存しています

 一方で、たとえば前立腺がん、というがんがあります。死亡した男性を解剖すると、報告によってかなりの幅がありますが、約5%から40%の方は、死亡原因に関係なく、前立腺がんを持っていることが報告されています。これは、前立腺潜伏がん(ラテントがん)と言われます。ラテントがんとは、死後の解剖で初めて見つかるがんのことです。悪性度が低いので、結果的に共存しているのです。

 つまりそれだけの割合の男性は、前立腺がんを持ちながら、それと気づくことなく人生を過ごしていることになります。

 もちろん、がんには、その部位によっては深刻なところもいくつかあります。

 たとえば脳における脳幹部のように、生命維持装置として重要な役割を果たしている場所が、がんに冒されれば、それは致命的です。

 すい臓にがんができれば、消化酵素が出なくなり、これも危険です。さらに肝臓の胆嚢のところ、胆汁を出す場所にがんができると、黄疸になってしまいます。

ケトン食でウィズキャンサーを目指す

 内臓のがんの中で早期に発見され、内視鏡や腹腔鏡で患者さんの体に負担が少ない方法でがんが除去される治療は、とても有効と思われます。

 ただ、ある程度進行しているがんだと、手術などで切除したあとで、転移が見つかることもよくあることです。

 「切るべきかどうか」という判断は非常に難しいものです。そこは、長年、切るべきかどうか真剣に向き合っている専門の外科の先生方の判断が尊重されるところだと思います。

 しかし、がんの切除によって内臓の機能を低下させたり、体にダメージを与えることもあります。結果として、死期を早めてしまうケースもあるかもしれません。

 コロナウイルスと上手に付き合って生活する「ウィズコロナ」のように、ケトン食が医療の現場に取り入れられることで、「ウィズキャンサー」の対処も可能になるのではないかと、患者さんを診察しながら考えています

(※本稿は『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』の一部を抜粋・編集したものです)

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売に。