空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容の一部を特別に紹介します。

【気象研究者が教える】夏は暑く、冬が寒いのはなぜか? Photo: Adobe Stock

遠赤外線ストーブが離れていても温かい理由

 地球上の気温は放射によって決まります。放射とは、熱を持つ全ての物体が発している「電磁波」のことです。

 火のついたコンロに手を近づけると熱いのは当たり前ですが、少し離れたところからでも熱いと感じることがあります。遠赤外線のストーブなどが離れていても温かいのは、電磁波の放射によって熱が届くためです。

 電磁波の特性は波長によって大きく変わります。可視光線の紫より波長が短いところが紫外線、赤より波長の長いところが赤外線と呼ばれる領域です。

 なお、太陽光は紫外線や可視光線、赤外線など様々な光が重なった状態で地球に届きます(太陽放射)。

 それに対して地球からの放射は地球放射といい、こちらは赤外線がメインです。

 温度が高いほど波長の短い電磁波を強く放射できることは「ウィーンの変位則」と呼ばれています。鍛冶場で鉄を高温に熱すると色が赤から黄色に変わっていくのは、温度によって波長が変化するからです。

【気象研究者が教える】夏は暑く、冬が寒いのはなぜか? 電磁波の分類

 太陽放射と地球放射のバランスで、一日の気温変化、季節の変化を説明できます。

最高気温が出やすい時間

 太陽は日の出からだんだんと昇り、南にあるときにもっとも高くなります。地表で受ける放射量は太陽高度が高くなるほど多くなるため、正午頃がピークになります。

 午後になると熱を受けて温まった地表から、宇宙に向かって熱を逃がす放射のほうが大きくなりはじめ、その頃に気温がピークに達します。これが、午後二時頃に最高気温が観測されやすい要因です。

 一方、地表面からの熱の放射で地面が冷える放射冷却は、太陽が出ていない夜間に特に効きます。最低気温が出やすいのは、日の出頃の時間です。

夏は暑く、冬は寒い理由

 気温は季節によっても変化します。地球は地軸が傾いた状態で太陽の周りを公転しているため、北半球では夏至のときに昼がもっとも長く、太陽放射の影響を受ける時間が長くなり、受け取るエネルギーも増えます。

 逆に、冬は受け取るエネルギーが減る上に、夜が長く、太陽放射の影響が小さくなって気温が下がりやすくなります。夏と冬の気温が大きく違うのは、そういうわけです。

 もちろん、緯度によっても気温は変わります。極に近い高緯度地域では、赤道域に比べて同じ面積で受け取る放射が少なくなります。

 このため、北半球では北ほど寒く、南ほど暖かいのです。

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしから抜粋・編集したものです)

荒木健太郎(あらき・けんたろう)

雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。
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