2021年から上場企業の監査報告書にKAMの記載が義務化された。KAMとは「Key Audit Matters」の略で、日本語では「監査上の主要な検討事項」という。会計監査人は監査対象企業の決算の特に何に注目したのか、無味乾燥な定型文ではない記述が行われる。監査の透明性向上により監査報告書の情報伝達手段としての価値向上を図る目的で、鳴り物入りでスタートした制度なのだが、最近あまり話題にならない印象だ。しかし、東証プライムに上場する中堅ゼネコン「日本国土開発」の今年5月期の有価証券報告書に添付された、トーマツによる監査報告書のKAMに興味深い記述を発見した。(東京経済東京本部長 井出豪彦)

工事原価総額の見積もりが
ゼネコン監査で注目される理由

 日本国土開発のKAMは2項目あり、そのうち最初の「一定の期間にわたり収益を認識する方法における工事原価総額の見積り」は建設業ではごく一般的な内容である。

日本国土開発が今年5月末まで本社を置いていた東京・港区の赤坂MKビル日本国土開発が今年5月末まで本社を置いていた東京・港区の赤坂MKビル(筆者撮影)

 ゼネコンの場合、当該期中に着工から完成、引き渡しにいたるケースはごくわずかで、ほとんどの工事が期をまたいで次年度以降の完成になる。

 その場合、決算では当期にいくら売り上げ(完成工事高)を計上するかというと、その工事の「請負総額」×「期中の工事進行割合(%)」となる。

 請負総額は最初に決まっているので、あとは期中に何パーセント工事が進捗したのかを算出する必要がある。それをどうやって計算するかというと「当期の工事原価」÷「工事原価総額の見積もり」の式で算出する。