激動!会計士#1Photo:Glow Images/gettyimages

新型コロナウイルスの感染拡大は、会計士の仕事に劇的な変化をもたらした。監査現場で非対面のリモート化が進み、AI(人工知能)などデジタル技術の導入が加速する。それらのテクノロジーを駆使し、会計士はコロナ禍で誘発される不正会計を見破らなければならない。その一方で企業側からは、高騰する監査報酬に不満の声が上がり始めている。特集『激動!会計士』(全12回)の#1では、コロナ監査を巡る企業と監査法人の“攻防戦”の最前線をレポートする。(ダイヤモンド編集部 田上貴大)

新型コロナウイルス感染拡大が期末決算を直撃
水面下で繰り広げられる企業と監査法人の攻防戦

「あのときは、1日ごとに目まぐるしく状況が変わっていた」――。ある銀行の財務担当幹部は、当時の混乱期をそう振り返る。

 2020年4月、首都圏を中心に緊急事態宣言が発令され、新型コロナウイルスvs国民の構図が本格化したさなか、多くの企業の経理部や銀行の主計部も厳しい戦いを強いられていた。コロナ禍で監査法人と連絡が取れなくなる中、3月締めの決算書をまとめなければならなかった。

 通常、会計士にとっての繁忙期は四半期ごとの決算月直後がそれに当たる。とりわけ3月直後は年度決算の集大成であり最も忙しいのだが、まさに「競馬で言うところの、第4コーナーを回ってゴールが見える直前」(四大監査法人幹部)に緊急事態宣言が出されたわけだ。

 後述するようなリモート監査の導入もあり、決算発表の準備は着実に進んだ。

 だが、「データを全て欲しいと会計士は言うが、ボリュームが大きく全てのデータをオンラインでやりとりするのは不可能だった」「コロナ禍の影響を決算書にどこまで書き記すかで意見が割れた」などの衝突が発生。銀行業界で言えば、「海外の子銀行の監査が動いていない」「メガバンクで監査報告書が間に合わないかもしれない」といった情報が業界内で錯綜するなど、特に4月末から5月の連休という、決算発表の直前まで緊迫した状況が続いた。

 例えばりそなホールディングスでは、コロナ禍以前に決算の集計作業をペーパーレスに移行済みで業務効率化は進んでいたという。それでも、「監査上の主要な検討項目(KAM)」と呼ばれる監査項目を初めて監査報告書に開示する年であり、会計士とのコミュニケーションが必須。だが当時はビデオ会議システムの利用も少なく、りそな銀行の主計室長は「1日の作業の遅れも許されない中で、気苦労が絶えなかった」と吐露する。

 20年3月期決算は結果的に、「ほぼ遅れずに監査報告書を出せた」(別の四大監査法人幹部)という。

 しかし、多くの企業が次の3月末に迎える通期決算は、コロナ禍のあおりを一年中食った“真のコロナ決算”だ。年が明けて再び緊急事態宣言が発令され、企業にも監査法人にも緊張感が走る。

 単にリモート監査に慣れていればよいのではない。不正会計やデジタル化、そして監査報酬を巡る攻防戦が、企業の経理部と会計士との間で繰り広げられようとしている。