人生100年時代、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。相続の相談実績は5000人を超えている。大増税改革と言われている「相続贈与一体化」に完全対応の『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】 相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』を出版する。遺言書、相続税、贈与税、不動産、税務調査、各種手続という観点から、相続のリアルをあますところなく伝えている。

【相続】知らないと絶対損する2020年からの新制度Photo: Adobe Stock

絶対知っておくべき、2020年からの新制度

 2020年4月より、配偶者居住権という権利が新設されました。この制度は、「亡くなった方の自宅の権利を、住む権利(居住権)と、それ以外の権利(所有権)に分離させて、住む権利は配偶者に相続させ、それ以外の権利は配偶者以外の相続人に相続させる」というものです。

 従来の法律では、次のようなトラブルがよく起きていました。

 4000万円の預金と4000万円の自宅を持つA男がおり、A男には妻のB子と娘のC美がいるとします。A男に相続が発生した場合、B子とC美の法定相続分は2分の1ずつです。4000万円の自宅をB子が相続するなら、預金4000万円はC美が相続することになります。しかし、これではB子が今後生活していくための金銭がありません。これではB子が困ってしまいます。バランスが取れるだけの金銭がないケースも想定されます。

そこで、配偶者をできるだけ手厚く守るために新設されたのが、この配偶者居住権という制度です。先ほどの例で言えば、住む権利(居住権)はB子に相続させ、それ以外の権利(所有権)はC美に相続させるという形を選択できるようになりました(相続人全員の同意のもと、任意で設定できます)。

 仮に居住権の評価額が2000万円、それ以外の権利(所有権)の評価額が2000万円になったとしたら、B子は居住権2000万円と預金2000万円を相続し、C美は所有権2000万円と預金2000万円を相続。これで法定相続分通りになります。B子は住む場所と生活資金を確保でき、安心です!

配偶者居住権のポイント

 配偶者居住権は大きく2種類に分けることができます。1つが配偶者短期居住権、もう1つが配偶者居住権です(長期とは言いません)。

 配偶者短期居住権とは、相続が発生した日から6ヵ月、または、遺産(自宅)の分け方が決まった日の、いずれか遅い日までの間、配偶者は自宅に継続して住み続けることができる権利です。

 例えば、2024年1月1日に相続が発生し、2024年4月1日に自宅を子どもが相続することが決まったとしても、2024年7月1日(相続発生から6ヵ月)までは配偶者はその自宅に継続して住み続けることができます。

 この場合、2024年4月1日に所有権を子どもに名義変更したとしても、配偶者短期居住権によって、配偶者は、相続が発生してから最低でも6ヵ月間は、その自宅に継続して住み続けることができます。

 また、遺産分割協議の内容に納得がいかなければ、納得するまでの間(6ヵ月を超えても)、継続して自宅に住み続けることができます(この場合、不動産の名義は亡くなった人の状態が継続されることになります)。

登記すれば、第三者に権利を主張できる

 短期ではない配偶者居住権は、相続人全員が合意した場合や、遺言書で配偶者居住権を設定する指定がある場合等に設定することができます。

 配偶者居住権は、登記をすることによって第三者に権利を主張することができます。登記をしないと所有権を相続した人が勝手に自宅を売却し、新たに購入した人から退去を求められる可能性がありますので注意しましょう。

 自宅の管理はどうなるのでしょうか。固定資産税や軽微な修繕は配偶者が負担することとされ、大規模な修繕や増改築等をする場合は所有権を相続した人が負担することとされています。固定資産税の納税通知書は所有者宛に送られてきますので、いったんは所有者が支払いをし、その後に配偶者から精算してもらう形になります。

 また、一度設定した配偶者居住権は、その後に消滅させることも可能です。設定期間が満了した場合や、配偶者が死亡した場合、建物が滅失した場合、所有者との合意があった場合などに、配偶者居住権は消滅します。

 まだ始まったばかりの制度ではありますが、相続トラブルを防ぐ救世主になってくれると筆者は期待しています。

(本原稿は橘慶太著『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋・編集したものです)