やってはいけない!相続&生前贈与#9Photo:PIXTA

「妻に自宅を生前贈与」「自宅を相場より安く子供に売った」――。相続には明確なルールがある。それを知らずに相続税の対策をすると痛い目に遭う。特集『やってはいけない!相続&生前贈与』(全16回)の#9では、専門家への相談が多い、生前贈与を巡る四大トラブルの事例と解決法を紹介する(ダイヤモンド編集部 野村聖子、監修/税理士法人弓家田・富山事務所代表社員 弓家田良彦)

「週刊ダイヤモンド」2023年7月15日・22日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

事例1
子供の住宅資金贈与で相続時精算課税を選択した

 小池英二さん(仮名・60代男性)には、3年前に結婚した一人娘(30代)がいる。先日、その長女が実家を訪れ妊娠3カ月であること、そして子供が生まれることをきっかけに住宅の購入を考えているとの報告があった。

 聞けば、出産後も仕事を続けたいので、両親から育児のサポートを受けるため「実家の周辺でマンションを探している」とのこと。

 小池さんは妻と相談し、自宅の敷地内に空き区画があるので、そこに長女夫婦が住むための家を建てることを提案。長女も快諾した。

 そこで自分名義よりも、子供名義にした方が相続税を減らせると、建物代4000万円のうち2500万円を小池さんが贈与し、残り1500万円を長女名義でローンを組んで、建築することにした。

 ただ、2500万円に対する贈与税を若い長女夫婦が今支払うのは難しいだろうと、暦年贈与ではなく、相続時精算課税を選択。小池さんは出産を控えた長女をおもんぱかり、相続時精算課税の申告手続き一切を税理士に依頼した。

 本来、相続時精算課税の申告は贈与を受けた側が行う必要があるもので、税理士にも「相続の際には贈与分が遺産に加算されるので、娘さんにはくれぐれも話しておくように」と厳命されていたが、すっかり失念したまま時が過ぎた。

 それから10年後、小池さんは心筋梗塞で急逝。突然の死に、相続人の妻と長女は遺産の整理に追われ、やっと相続税の申告まで終えてホッと一息ついていた頃、長女に税務署から、10年前の住宅購入の際に利用した相続時精算課税の申告漏れの知らせが届いたのだ。

 当時、自分自身で手続きをしていない長女はそもそも贈与を受けたという認識がなく、相続財産に計上していなかったのだ。結果、過少申告で10%増しの追徴課税を支払うことになった。

 次ページでは、相続時精算課税を利用する場合の注意点をはじめ、贈与税の配偶者控除、自宅を子どもに安く売った後に大後悔したエピソードなど、生前贈与でよくある落とし穴と専門家からの回答を紹介する。