空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。
雨乞いから自然哲学へ
気象は今も昔も人類の生活に身近で重要なものです。古くは紀元前三五〇〇年頃から、雨乞いが行われていたとの記録もあるくらいです。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスの『気象論』は、その後の気象に関する考え方に大きな影響を与えたと考えられています。
アリストテレスは『天体論』で星の動きなど天上界のことを、『気象論』で地理や地質、海洋といった地上界の自然科学のことを扱いました。
その土台となったのが、やはり「観察」でした。観察をベースに現象の原因を解明しようという試みは、アリストテレスの時代から行われてきたのです。
アリストテレスは虹やハロ、幻日といった現象の原因が太陽の光であることを観察によって突き止めているのだから、すごいですね。
さらには水循環に加えて、蒸発や凝結といった降水の物理についても関心を持っていたといいます。
印刷技術の発明
そのように少しずつ発展していた自然哲学は、キリスト教の出現によって否定されていきます。
当時のキリスト教社会では、自然は神の領域であり、人である私たちが神の営みを解明することは許されなかったからです。こうしてしばらく自然科学の進歩は停滞します。
その後、古代ギリシャ哲学がイスラム圏経由でヨーロッパに入ってきて受け入れられると、自然哲学や占星学についても翻訳して研究しようと各地に学校が作られて、現在の大学の原型の一つとなりました。その中で、農業などの分野で日々の天候の予想をするべく「占星気象学」が実用的に信じられるようになっていきます。
ターニングポイントとなったのは、印刷技術の発明です。
古代ギリシャ哲学を基礎にした考え方は印刷を通して人々に普及しました。
科学革命が起こった
ガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートン、エドモンド・ハレー(1656―1742)、ブレーズ・パスカル(1623―1662)など、天体の運動と大気の運動を調べる人たちが増えて、細かな物理法則が洗練され、科学革命が起こりました。
江戸時代の天文台 日本では江戸時代、第八代将軍の徳川吉宗(1684―1751)が江戸城内に天文台を作り、一七一六年には雨量の観測をしたという記録が残っています。しかし、体系化された学問として気象学が導入されたわけではありません。世界的に見れば、かなり遅れていました。
江戸時代後期に天文観測の補正を目的とした気象観測が幕府によって行われるようになり、明治時代に欧米の技術が入るとともに気象観測も発展を遂げます。
明治政府と災害対策
明治時代にまず導入されたのが、各種の計測器でした。当時は海難事故が非常に多くありました。記録によると、一八七四年から一八七六年の三年間で、二〇〇〇隻以上もの船舶が難破しています。
悪天候をもたらす台風や暴風雨などで人命が失われる中で、雇用していた外国人から「電報を使って暴風がくることを前もって知らせれば、人命被害を軽減できる」とのアドバイスを受け、暴風警報の必要性が唱えられるようになりました。
農業や漁業など生活に必要な知識として古くから興味を持たれていた気象情報ですが、研究の進展に大きな影響を与えたのは「防災」だったのです。一八七〇年代になって、ようやく政府は情報伝達体制を作りはじめます。
初めての天気図
日本で初めて天気図を作成し、天気予報の礎を築いたといわれるのが、ドイツ人のエルヴィン・クニッピング(1844―1922)です。
全国で観測した気圧・気温・湿度・風などのデータを、電報を使って比較的短い時間で集める仕組みを整備しました。データ解析の仕組みを整えて、一八八三年二月十六日、初めての天気図を作成しました。
当時の観測はまだ十分ではなく、上手くいかないことはあったようですが、大変に大きな一歩です。
(本原稿は、荒木健太郎著『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』から抜粋・編集したものです)
雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。
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