空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と賛辞を寄せている。京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏に本書の読みどころを寄稿していただいた。
「空を見上げる感動」を学びにつなげる
誰でも空を見上げて感動することがあるだろう。
美しい空は人の心を和ませ、我々が大自然に包まれて生きていることを思い起こさせる。その空は、実は大気の流れである気象を理解するヒントに満ちている。
本書は美しい空や雲の話からスタートし、現代気象学の最先端まで紹介する優れた啓発書である。
珍しい雲の写真やユーモラスな図版を多用し、天気と気象のメカニズムを読み解き、最終的に気象災害に備えるための知恵を惜しみなく伝授する。
著者は慶大経済学部から気象大学校に入学し直したという根っからの気象好きだ。念願の気象庁に就職後は気象研究所で予報・観測の業務を熱心に行っている。
また異常気象がもたらす雲の研究に取組み、ネットを用いた啓発活動にも熱心で日本中に多くのファンがいる。
地震雲という「都市伝説」を喝破
一般市民向けの目線が本書の最大の魅力だが、巷でよく話題になる「地震雲」に対して明快なメッセージを与える。
空に特異な雲が現れると地震が起きるという都市伝説だが、著者は「雲は地震の前兆にはならない」(331ページ)と断言し、その理由をこう説明する。
「雲や空の現象は、大気で起きている現象であり、全て気象学で説明できます。地下の活動が上空の雲に影響を与えるかどうかは、わかっていません」(331~332ページ)。
確かに気象庁と日本地震学会は、「地震雲は科学的に証明されていない」と公言してきた。
それについて著者は、「気象学ですでに説明できている現象に、もし仮に地面の変化が何らかの影響を与えていたとしても、それを人間が雲の見た目から区別して認識するのはまず不可能です。だから、雲は地震の前兆にはならないと断言できる」(332ページ)と喝破する。
壁をぶちこわした凄い本
そして心優しい著者はこう結ぶ。「地震が心配なら、まずは日頃から備えをすることが重要です。その上で、雲の変化が何を表しているのかを知るようにすると、防災意識をよりいっそう高めることになるでしょう」(333ページ)。
私もまったく同感だ。
本書が優れているのは、空と雲に興味を持つ人々に対して、学習する敷居を徹底的に低くしようと努力している点である。
気象学は物理学をベースにするため、これまで数式を多用した書籍が多かった。
そうした世の傾向に対して著者は、「『気象学は崇高な学問なのだから、数学もできないなら諦めよ』」といわれているような壁を感じて、どうにかその壁をぶち壊したいと思った」と本書執筆の意気込みを吐露する(378ページ)。
私自身も「科学の伝道師」として南海トラフ巨大地震や富士山噴火の減災活動に没頭しているが(鎌田浩毅著『知っておきたい地球科学』岩波新書)、まさに著者は地球科学を伝えるに当たり得がたい「同志」と言っても過言ではない。
本書を読み終えた後は、空や雲や天気についてくわしく知ることができるだけでなく、私たち人類が地球上で暮らす上で肝要な考え方も身に付くだろう。
空や雲を含めて自然の美しさの仕組みに興味を持つ人にぜひ奨めたい好著である。
評者:鎌田浩毅(かまた・ひろき、Hiroki Kamata)
1955年、東京都生まれ。京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授。
筑波大学附属駒場中学・高校を経て、79年東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)主任研究官、米国内務省カスケード火山観測所上級研究員を経て、97年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。2021年から現職。日本地質学会論文賞受賞。理学博士(東京大学)。専門は火山学・地球科学・科学コミュニケーション。テレビや講演会で科学を明快に解説する「科学の伝道師」。京大の講義は毎年数百人を集め学生の人気を博した。週刊「エコノミスト」に『鎌田浩毅の役に立つ地学』を連載中。著書に『知っておきたい地球科学』『火山噴火』(岩波新書)、『富士山噴火と南海トラフ』(ブルーバックス)、『揺れる大地を賢く生きる』(角川新書)、『地球の歴史』『理科系の読書術』(中公新書)、『座右の古典』(ちくま文庫)など。YouTube「京都大学最終講義」公開中。
ホームページ:http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/resilience/~kamata/