空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

『天気の子』『フランダースの犬』にも登場…人類を魅了し続ける「天使の梯子」の想像を絶する美しさ天使の梯子(写真:荒木健太郎)

空から伸びる光の筋

 空に羊の群れのような高積雲や、空を曇らせる層積雲が広がっているときには、雲の隙間から地上に向かって放射状に光の筋が降り注ぐことがあります。

 大気中のエアロゾルに光が当たって散乱し(ミー散乱)、その経路が見える「チンダル現象」による「薄明光線」です。

『旧約聖書』の「創世記」(二八章一二節)で、イスラエル人の族長のヤコブが夢の中で、天使が梯子で空と地上を昇り降りしているのを見たことから、この光の筋は「天使の梯子」「ヤコブの梯子」とも呼ばれます。

芸術としての薄明光線

 美しくドラマチックな薄明光線は、多くの芸術家の創作意欲を刺激しました。

 たとえば、オランダの画家、レンブラント・ファン・レイン(1606ー1669)です。スポットライトを当てたように明暗を強調した画風で「光と影の魔術師」と呼ばれた彼は、薄明光線を描くことを好みました。薄明光線は「レンブラント光線」ともいわれています。

『天気の子』『フランダースの犬』にも登場…人類を魅了し続ける「天使の梯子」の想像を絶する美しさレンブラントの作品『キリストの昇天』

 一方、日本の詩人・作家の宮沢賢治(1896―1933)は、音楽の道を諦めようとする教え子に贈った詩「告別」の中で、薄明光線を「光でできたパイプオルガン」と表現しています。

 私が気象監修を務めた映画『天気の子』(新海誠原作・脚本・監督、東宝)にも薄明光線は登場します。リアルな気象の情景を追求するために、太陽の高さによって色を変えてもらいました。

 天使の梯子は、太陽の高さが低いときには「レイリー散乱」でオレンジや赤っぽい梯子になり、少し高いときには黄金色、正午に近い時間帯には白に近い色になります。映画ではその色合いも忠実に再現されています。

 アニメ『フランダースの犬』(フジテレビ)の最終回、クライマックスのシーンでも天使の梯子が非常に印象的です。ついつい私も、疲弊していて召されそうなときに、SNSに天使の梯子の写真を投稿してしまいます。パトラッシュ……。

反薄明光線も見逃せない

「天使の梯子」は、曇っている空から下に向かって伸びる光の帯のことですが、薄明光線は、上から下に伸びるものだけではありません。

 太陽が積雲の後ろに隠れたときにも、光と影の筋が積雲や積乱雲から上空へ放射状に伸びることがあります。

 上向きに伸びた薄明光線が反対側の東の空まで伸びて、対日点に向かって光と影が集まっていく現象は「反薄明光線」「裏後光」と呼ばれています。

『天気の子』『フランダースの犬』にも登場…人類を魅了し続ける「天使の梯子」の想像を絶する美しさ積乱雲から伸びる薄明光線(写真:荒木健太郎)
『天気の子』『フランダースの犬』にも登場…人類を魅了し続ける「天使の梯子」の想像を絶する美しさ反薄明光線(写真:荒木健太郎)

 空が割れているようにも見えるため、「天割れ」とも呼ばれます。

 関東などでは、山で積乱雲が発達しやすい夏の夕方、西の空で特に発生頻度が高めです。息をのんで見惚れてしまう、とても美しい現象です。

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしから抜粋・編集したものです)

荒木健太郎(あらき・けんたろう)

雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。
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