脳の手術後「夫の人格が変わった」「電極を抜いて」と語る妻…本当の闘いはこれからだPhoto by Eijiro Hara

60歳で難病の診断を受けた筆者が闘病生活を赤裸々につづる連載。第6回以降は、頭に穴を開けるDBS(脳深部刺激療法)手術とその効果について前・中・後編に分けてお届けしている。今回は、2022年9月30日に手術を受けてから1年をつづる後編。(ジャーナリスト 原 英次郎)

>>前編『頭蓋骨に穴を開け電極を脳の深部へ…「男66歳、人生最後のトライ」の大手術を決心した理由』を読む

>>中編『「脳」の手術中に医師の議論が聞こえてきて…手術時間が1時間半も長引いたワケ』を読む

手術が終わってからが治療の始まり
そもそも効果の期待できない3things

 DBS(脳深部刺激療法)は、「手術が終わってからが治療の始まり」だという。実際、この言葉の通りだというのが1年たった俺の感想だ。得たものも大きかったが、新しく克服しなければならならない課題も生じた。

図1:DBSシステム
出典:第2回日本パーキンソン病コングレス共催セミナー「専門医に聞くDBSの真実」 拡大画像表示

 得たものは、差が大きくて苦しめられていたオン(薬が効いている時間)とオフ(薬の効いていない時間)の差がなくなり、一日中活動できるようになったことだ。オフの時間に寝込む必要がなくなったのは、本当にうれしい。

 一方、新たな課題は、とても転びやすくなったこと、言葉が出にくくなったことだ。

 そもそもDBSでは、改善の効果が期待できない3thingsというものがある(図2参照)。俺の新たな課題はこの中にも入っていて、DBSではそもそも改善は期待できない。「新たな」といったが、この1年でいっそう悪化したことといった方がいいだろう。

図2:効果の期待できない“3 things”
出典:第2回日本パーキンソン病コングレス共催セミナー「専門医に聞くDBSの真実」 拡大画像表示

 2022年9月30日に手術を受け、10月21日に退院、そして同月31日は初めての外来による診察だった。オンとオフがなくなったのは、まさにDBS手術の狙い通りだが、新しい課題については担当医のO先生に相談した(下記は、その時の様子を友人たちへ報告したメールから引用)。

「左後方に倒れやすいこと、足の裏のしびれ、それから私の性欲が強いことについて相談しました。
転倒と足の裏の痺れについては、0.2mmA電流を強くし、性欲についてはやる気を刺激する貼り薬のニュープロバッチを18mgから15.75mgへと減らすことになりました。まだ、脳の腫れが残っており、腫れが引くにつれ、電流を強くし薬を減らして行く予定です」

 O先生によれば、退院した後も電極を入れただけで良くなってしまう一時的な効果もあるので、それが落ち着く半年間は、月1回の外来診療で微調整する必要があるという。その後、もちろん医師の指示通り月1ペースで通院したが、転びやすいという姿勢反射障害はなかなか克服されなかった。

 人間の生活は、「無意識」が多い。俺は、無意識に方向転換する時が危ない。牛乳をコップ1杯飲み干したのでもう1杯飲もうと、冷蔵庫のドアを開けた瞬間に後ろにひっくり返る。階段から無事に降りたと思ったのも束の間、左右どちらかに方向転換するとひっくり返るといった具合である。特に、自宅にいる時が危ない。壁までの距離が近い上に、家具なども並べてあるからだ。

 どうしたものかと思っていた時、実兄のアイデアで、ラグビーのヘッドキャップをかぶるようにした(俺は、高校時代ラガーマンだった)。これが、いかように転んでも頭を保護してくれて、すごい威力を発揮している。外出時にかぶる時もあるが、ラグビー好きのおじさんくらいにしか思われない(と思う…)。

 キャップ姿の写真をこの連載の担当者に送ったら、「似合っていますね、すごく若々しく見えますよ!」なんておだてられてしまい、いつの間にか連載のトップ画像になっていた。>>『元経済誌編集長、パーキンソン病と闘う』