超ミニマル・ライフとは、「どうでもいいことに注ぐ労力・お金・時間を最小化して、あなたの可能性を最大化する」ための合理的な人生戦略のこと。四角大輔さんの新刊『超ミニマル・ライフ』では、「Live Small, Dream Big──贅沢やムダを省いて超効率化して得る、時間・エネルギー・資金を人生の夢に投資する」ための全技法が書かれてあります。本書より、肉体疲労が消える「デジタルデトックス術」についてご紹介します。
監修:湯本優/株式会社cart CEO、医師、医学博士

“肉体疲労”を軽くするための「デジタルデトックス」とはPhoto: Adobe Stock

常時接続したスクリーンデバイスの異常さ

「週末は何をしていましたか?」

 こう聞かれて、明快かつ前向きに答えられるだろうか。

「特に何も。ゲームや動画視聴くらいかな」
「何をしていたかよく覚えていない」

 なんて場合は注意が必要だ。せっかくの休暇を「不明時間(※1)」にするなんてもったいない。じっくり体を休めていたわけでも、活動的になっていたわけでもない、文字通り「時間(命)の無駄遣い」をしていた可能性が高いからである。

 なぜなら今日においては、そういったケースのほとんどが、スマホを筆頭とするネット接続したスクリーンデバイスによって、脳がハッキングされているからだ。

 忘れがちだが、ケータイ電波をはじめとするインターネット網が地球を覆い尽くして「常時オンライン状態」になってから実はそんなに経っていない。長い人類史において、ネットの普及は「数秒前(※2)」の出来事なのだから。

 常時接続できることで、「それ以前はどう生きていたか」を思い出せないほど利便性は高まったが、高速ネット網がもたらす「情報ノイズ爆撃」によって平穏な時間が奪われ、生活が侵食されるようになってしまった。

 人体にとって異常事態であることを自覚しているだろうか。

ネットから離れて肉体疲労を軽くする

 そんな情報ノイズ社会に生きる我々に必要なのが「デジタルデトックス術」だ。

 この言葉が示す通り、意図的にネットを遮断して過剰な情報ノイズをデトックス(解毒)する行為のこと。

 別名「ドーパミン・ファスティング」とも呼ばれる。これは、スクリーンと情報ノイズによって、過剰に分泌させられる興奮ホルモンをファスティング(断食)するという意味。

 前著『超ミニマル主義』では、スマホによる脳ハッキングの恐ろしさを詳説した上で、それを回避しながら「スマホとネットをうまく活用する技法」を解説した。

 本連載で伝えていくのは、「スクリーンデバイスとネットから距離を置く方法」であり、「適切な脳の休ませ方」だ。その目的は「肉体疲労の軽減」にある。

 筆者が暮らすニュージーランドの湖畔は基本ケータイ圏外なので、衛星アンテナ経由のルーターを切ればオフラインだ。

 ネットを使う時間を午前中に限定しているから、毎日一定のデジタルデトックス時間を確保できていることになる。

 さらに定期的にオフライン期間を持つようにしている──短い時で丸1日、長い時で1週間ほど。

 そして小さな田舎街から20km離れた辺境なので、人の干渉や喧騒でペースが乱されることはない。それだけに、「たった1日」のデジタルデトックスによって、いかにネットによって自分のリズムが狂わされていたかを痛感する。

脳の一部を酷使する実行ネットワーク

 冒頭で「週末」に関しての問いかけをしたが、念のために言っておくと「溜まった疲れを取るべくゆっくり休んだ」と即答できたなら、それは「命の無駄遣い」にはならない。正当な時間の使い方であり、一つの効果的な休日の活用法だ。

 ただし、たとえベッドやソファーで横になってのんびり過ごしたとしても、常時オンライン状態のスマホを使ったり、スクリーンデバイスを眼にしている限り脳は休めない。

 本人は、SNSやゲーム、動画や友人とのチャットで、ストレス発散した気になっているかもしれない。だが、それは一時的な感覚。その行為はただ脳を激しく疲れさせるだけ。

 では一体、なぜスマホなどのスクリーンデバイスは脳を疲れさせるのか。その答えは脳科学が明快に教えてくれる。

 何かに注意を向けたり、目の前のことに集中する時、脳全体ではなく特定の領域のみが強くアクセルを踏む「実行ネットワーク」という活動状態に入る(※3)。まさに、何かを意識的に実行すべき時や、仕事の場面で最も求められるモードである。

 誰もが体験しているからわかると思うが、このモードは脳への負担が大きいため長くは続かない。

 ちなみに、「怒り」や「エゴ」に頭が支配されている時も似たような現象が起きる。一部の領域だけが活性化して、つながりに欠けた状態となる。

 共に、脳を著しく疲弊させるという(※4)──不思議としか言いようのない共通点である。こういったことから、「実行ネットワーク」「怒り」「エゴ」というのは、人間にとって不自然な状態なのだろうと想像している。

調和的なデフォルトネットワーク

 一方、脳がアイドリング状態に入った状態のことを「デフォルトネットワーク」と呼ぶ。デフォルトという名が示すように、意識していないと脳はこの状態に立ち戻るという。

「実行ネットワーク」で酷使した部位の回復モードであり、緊急時に再び「実行ネットワーク」へ移行してパフォーマンスを発揮すべく、脳が待機している状態だ(※3)。

 この時、脳の一部ではなく全体が活性化しているのだが、人生に感謝したり、深い幸福を感じている時も、同じように脳全体がバランス良くつながっていることがわかっている(※4)。

 筆者は、「デフォルトネットワーク」「感謝」「幸福」というのは、人間にとっては自然な状態で、「潜在意識」との関わりが深いのではないかと考えている。

体をも疲れさせるスマホの仕掛け

「ただ画面を見ているだけ」とはいえ、脳は広大なネット世界から送られてくる情報ノイズの嵐にさらされる。ドーパミン(興奮ホルモン)が過剰分泌して、交感神経優位(緊張モード)になり、意識が奪われてしまう。

 たとえ寝転んでいても、リラックスしようとしても、脳内で「実行ネットワーク」が勝手に起動して脳は休めない。

「でも、体は休めたからいいのでは?」

 そんな声が聞こえてきそうだが、間違っている。「肉体疲労の大半は脳疲労が原因」となっているため、残念ながら実質的には、体の疲労感の解消にもならない。

 ベッドで長時間スマホを使った後に立ち上がろうとしたら、「頭と体が重い……」という経験は誰もがしたことがあるだろう。その原因はここにあったのだ。

 視点を変えれば次のことがわかる。「脳をしっかり休ませれば、肉体疲労を軽くできる」ということに。むしろ、体を適度に動かした方が、体の慢性疲労を解消できることも忘れないでほしい。

 改めて念を押しておきたい。休日の過ごし方として最悪なのが、目的なくスマホをいじったり、ゲームや動画サイトなどに意識を奪われる行為であると。

 この絶対ルールに関して、もう一つ付け加えておきたい。

 おわかりだろう──日々の過ごし方においても同じであると。

(本記事は、『超ミニマル・ライフ』より、一部を抜粋・編集したものです)

【参考文献】
※1 本田直之『レバレッジ時間術』幻冬舎新書(2007)
※2 人類史250万年を単純化した時間軸。「昨日」まで狩猟採集生活を送り、「数時間前=1万2000年前」の農耕革命をもって定住し、「数分前=200年前」の産業革命から物質的な豊かさを獲得し、「数秒前=10~30年前」からネット&スマホ社会となった
※3 フローレンス・ウィリアムズ『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる 最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方』NHK出版(2017)
※4 岩崎一郎『科学的に幸せになれる脳磨き』サンマーク出版(2020)