書影『気がつけば生保レディで地獄みた。』『気がつけば生保レディで地獄みた。』(古書みつけ)
忍足みかん 著

 私は友だちにそのことを踏まえたメッセージをコピー&ペーストして送りまくった。
 友だちのためにいいことをしている、だって病気になって困る友だちを見たくない。がんを的確に狙い撃つ最新医療なんて受けたら何百、何千万だ。ハピネス生命の最新医療特約なら、2000万円まで出る。そう思うと、「実はちょうど保険を考えていて」「保険入りたいの」という返事が来る気がした。けれども、一向に返事はなかった。

 既読だけはついている。だが、あるグループLINEを見ようとして違和感に気づいた。それは大学の同級生らのもの。よく見ると、メンバーが一人減っている。心臓がざわめく。まさか……震える手、指先でトーク画面を開くと……。

【ゆいが三上杏を退出させました】

 の文字。そして、もうグループLINEは見られなくなった。追放されてしまった。そこでハッと我に返る。私からは友だちのためでも、友だちからしたらただの迷惑な勧誘でしかない。「相手がどう思うか考えて行動しましょう」なんて幼稚園でも習うことなのに、それが今、頭から抜け落ちていた。
 どうしよう、どうしよう、謝らなくちゃ、追放されたら大学の友人らとのつながりが絶えてしまう。

「なにやってるの、私」

「退出させました」の文字に泣きそうになる。悔しい? 悲しい? わからない。謝らなくちゃ、謝ってグループLINEに戻してもらわなくちゃと、そのグループLINEに入っている友人に個別にメッセージを送ろうとする。一方で、「自業自得だろ」とも思った。卒業後は、同窓会の連絡や思い出話、近況報告に使う場なのに、脅し文句の営業で汚したのは、まぎれもない私だ。もしも私がそれを言われた側ならば引くし、ちょっと軽蔑すらする。追放されても文句は言えない、被害者面はできない。納得してしまう私がいる。こっちは皆のことを心配してやってるのに、いきなり追放はないよ! 病気になっても知らねぇぞ! と、逆切れしている私もいる。

 どっちが本当の私なのだろう。追放だけでなく、数人からブロックや着信拒否をされ、恩師からは「君はダメになった」と言われ、なかには、「勧誘するなら友だちやめる」とストレートに宣言してくる友人もいた。追い詰められる。とはいえ、落ち込んだり、悲しんだりしている間にも〆切は近づいてくる。泣いている暇があるのなら、1件でもアポを取らなくてはならない。