Pat Greenhouse/The Boston Globe/Getty Images 米マサチューセッツ州にある電気自動車(EV)の修理訓練センター

 電気自動車(EV)を初めて購入した人たちは、予想外の欠点に気づき始めている。事故後の修理費が高額になりがちだということだ。

 米サンフランシスコ在住のスコット・マクフィゲンさん(51)は昨夏、自家用車の米新興EVメーカー、リビアンの電動ピックアップトラックに車をぶつけられ、テールランプの下にボーリングの球ほどの大きさのへこみができた。

 マクフィゲンさんは、修理は数千ドル、数週間程度で済むと思っていた。「少し甘かったようだ」と彼は話す。実際の請求額は2万2000ドル(約290万円)で、期間は2カ月半かかった。

 EVの場合、衝突事故後の修理はガソリン車より何千ドルも高くつくことがある。交換が必要な部品が多くなりがちで、車両が複雑で修理をできる人が少ないためだ。こうした問題は時間とともに軽減される可能性はあるが、EVを初めて持つ人は費用の高さと待ち時間の長さに驚くかもしれない。

 米国で自動車修理の保険請求処理を手掛けるCCCインテリジェント・ソリューションズによると、昨年の衝突後の修理費用は全車両で4215ドルだったのに対し、EVは6587ドルだった。

 衝突修理の高いコストとは裏腹に、ディーラーや自動車メーカーは電動の乗用車やトラックへの買い替えを勧める際、保守費用を節約できる点を売り込んでいる。EVはガソリンが不要なことに加え、維持費が少ない傾向がある。非営利の消費者団体コンシューマー・レポートによると、オイル交換やエンジン調整、タイミングベルトの交換といった定期的な作業が不要なため、EVは維持費がガソリン車の半分ほどで済む。

Sarah Rice/Getty Images フォードの電動ピックアップトラック「F-150ライトニング」の工場。同社は整備士の訓練が進み、部品がもっと入手しやすくなれば修理費は下がるとみている

 しかし、修理が必要になった場合、高くつくことになりかねない。主にテスラ車で構成される大規模なEV車両群を運用しているレンタカー会社ハーツ・グローバル・ホールディングスは、EVモデルの修理費用が一因で7-9月期利益が圧迫されたと明らかにした。

 EV所有者にとって、修理費の高さは保険料の上昇にもつながっている。保険比較サイト「インシュリファイ」によると、ガソリン車の保険料は1カ月あたり平均248ドルであるのに対し、EVは357ドルだ。

 EVへの買い替えを促し、ここ数カ月減速しているEV販売台数伸び率を再加速させようと取り組む自動車メーカーにとって、修理コストの引き下げはもう一つの厄介な問題だ。テスラやフォード・モーターをはじめとするメーカー各社は今年、新規顧客を引きつけようとEVの値下げに踏み切っている。

 CCCインテリジェントによると、EVの修理に必要な交換部品数は昨年、平均で従来型車の約2倍だった。多くのEV部品は固定や溶接の仕方が理由で修理ができず、交換せざるを得ないことが多い、と同社で最高戦略責任者を務めるマーク・フレッドマン氏は話す。

 これらの車両が衝突事故を起こした場合、さまざまな原因から修理がさらに複雑になりかねない。車体の分解はより複雑で、修理には多くの手順と注意が必要になることが多いという。

 米業界団体の自動車サービス協会(ASA)会長で、ニューメキシコ州で衝突車両の修理業を営むスコット・ベナビデス氏によると、リチウムイオンバッテリーを搭載した車両は損傷した場合に火災の危険性があるため、保管に際しても特別な配慮が必要だ。そのため、修理工程にさらに多くの時間とコストがかかるという。

 EVは従来の鋼鉄よりも珍しい素材を使用することが多いため、車体自体の部品代や工賃が高くなる場合がある、と衝突修理の専門家は言う。素材の中にはアルミニウムなど、特殊な工具や保管設備が必要なものもあるため、作業を行える修理工場は限られるという。

 「こうした工場は作業上のリスクを負い、工場を改造するため、高い料金を課すことになる」とベナビデス氏は指摘した。

NICK CAREY/REUTERS 英国のEV修理講習の様子

 EVの修理には通常よりも時間がかかることも多い。その種の作業ができる工場がまだ限られていることが一因だ。CCCインテリジェントのデータによると、EVを修理工場に持ち込むまでの期間は、従来型車よりも25%長い。修理にかかる日数も、非EVが45日であるのに対し、EVはおよそ57日だ。

 リビアンの広報担当者はマクフィゲンさんのトラックの修理費が高くなったことについて、一見しただけでは分からない、より深い部分の構造的な損傷が原因だと説明した。マクフィゲンさんによると、修理代は保険でカバーされた。車体パネルの修理代はさまざまだが、通常100~3000ドルかかる(JDパワー調べ)。

 リビアンの広報担当者は「当社の最優先事項は安全な車をつくることだ」とし、「リビアン車の修理費用は、他のEVメーカーと同程度だ」と述べた。

 自動車メーカーが補修部品の供給を増強し、訓練を受けた独立系の修理工場が増えるのに伴って、コストが下がる可能性はある。

 EV市場をリードするテスラは、衝突修理センターを自社で保有しているほか、個人経営の修理工場網も確保している。テスラの元従業員でリース車や下取り車の修理に携わっていたザンダー・ウォーカー氏は、EVを修理できる設備が整った工場が増えたことが、テスラ車の修理コストが過去10年で半減する助けになったと述べた。

 テスラによると、保守費や修理費の低下などにより、現在ではセダン「モデル3」の5年間の運用コストは、トヨタ「カローラ」とほぼ変わらないという。

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