米上院で6日、ウクライナ、イスラエルおよび太平洋地域の同盟諸国に対する1105億ドル(約16兆2200億円)の支援を盛り込んだ法案の審議入りが阻止されたが、これは芝居がかった政治として受け止めるのが最も適切だ。ジョー・バイデン大統領は恐らくここから、超党派の妥協成立に向けて真剣に取り組むのだろう。同氏は2020年、こうした妥協をまとめるのが得意だと話していた。
米上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務は、共和党員が審議入りを阻止する意向を示していたことから、審議入りを可能にする手続きの採決で必要とされる票(賛成票60票以上)が得られないと分かっていた。共和党議員49人全員が実際に反対票を投じた。しかし、それでもシューマー氏が採決に踏み切ったのは、民主党内の左派をなだめるためであり、支援が最終的に可決されない場合にその責任を共和党に負わせたいからだ。同氏は、支援法案に国境の移民対策条項を追加するよう要求したとして共和党を非難した。
シューマー氏は議場で、「国境(条項)は、ウクライナへの資金援助を打ち切るための右派強硬派の口実にすぎないのではないか。強硬派ではない他の共和党上院議員のあまりにも多くが同調しているのではないか」と述べた。
彼はよく分かっている。ミッチ・マコネル院内総務をはじめとする共和党上院議員の大多数は、ウクライナ支援を支持している。しかし、有権者は移民急増への対応も求めており、これに関しては、民主党系の大都市の市長でさえ対応を求めている。共和党員は当然、バイデン氏が望んでいるものをバイデン氏に与える見返りに、自分たちが望むものを得る機会として軍事支援要請を捉えている。これこそ、法案通過のためのプロセスだ。少なくとも、今まではそうだった。
共和党が僅差で下院の過半数を維持している状況下では、なおさらだ。新たに下院議長に就任したマイク・ジョンソン氏は、ウクライナへの武器支援を支持している。しかし、移民問題で何らかの譲歩を得られなければ、彼は支援法案を通過させることができない。支援法案の通過には、保守派の一部が要求している制限主義的な法案「国境安全法案(H.R.2)」のすべての条項は必要ないものの、国境の状況に変化をもたらす具体的な何かが必要になる。
米国で難民申請をする基準の厳格化に関する上院の交渉は、前進している。現在の「信頼に足る恐怖」という基準は、あまりにも容易に満たせるものであり、難民申請に関する裁判所の判断が下されるまで、申請者が数カ月から数年にわたって米国で自由に暮らすことを可能にする。多くの移民は、その後わざわざ難民申請の審査のために裁判所に出頭したりしない。
しかし民主党は、不法移民への「臨時入国許可」に関する対応にためらいを見せている。この措置により、米国では過去2年間で約150万人が生活や仕事のために拘束を解かれている。共和党は、移民・難民申請の基準がたとえ変更されたとしても、バイデン政権がこの入国許可を既定事実として利用するとし、入国許可権限の制限を求めている。
移民に対し、経由地となる他の安全な国(メキシコなど)で最初に難民申請することを義務付けるという共和党の意向についても、妥協の余地があるはずだ。しかし、シューマー氏はこれらの政策に関し、国境開放を主張する党内左派との対立を望んでいない。
シューマー氏は6日、上院で移民対策の優先項目を盛り込んだ修正案を提出する機会を共和党に与え、同党を愚弄した。これはもう、茶番劇だ。そうした修正案について、議事妨害を阻止できる十分な支持を民主党議員から得られないことをシューマー氏は理解している。
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法案の審議入りが阻止されたことで、米政府は現実を認識するはずだ。バイデン政権は、ウクライナ向け武器の追加供給に必要な米国の資金が12月末に枯渇する恐れがあり、米国がさらなる軍事支援を行わなければウラジーミル・プーチン氏がウクライナの首都キーウ(キエフ)に向けて再び進軍する可能性があると人々に訴えている。
われわれは、そうなるに違いないと思っている。しかし米政府は、ウクライナへの軍事支援を盛り込んだ法案の審議が決裂した場合の責任が共和党の側にあると事前に非難することで共和党を追い込めば、同法案を成立させることができると考えているようだ。民主党議員がこうした展開になると信じているならば、自らを欺いていると言える。ウクライナへの支援は、バイデン氏の政策だ。それが失敗すれば、共和党議員と同様にバイデン氏も責めを負うことになる。ロシア政府と世界は、バイデン氏の政治的な弱さを示すさらなる証拠を目にするだろう。その場合の勝者は、海外ではロシアのプーチン大統領と米国の敵対勢力、米国内ではドナルド・トランプ氏だ。
バイデン氏がこの混乱状況から抜け出すための方策は、移民対策の妥協案に真剣に取り組むことだ。バイデン氏は、共和党との合意達成を政権内の交渉担当者に指示し、分裂状態にある米議会でウクライナ追加支援の法案を可決させるにはこうした合意が必要だと、民主党員と国民に訴える必要がある。
バイデン大統領は、短期的には左派から一定の反発を受けるかもしれない。しかし喫緊の課題である国境の治安の改善を図れば、来年の選挙でバイデン氏が浮動票を取り込む助けになるだろう。そうすれば、優先してきた外交政策の崩壊と、そして恐らくウクライナ支援をめぐる友好諸国との関係の崩壊を招いた大統領になるという政治的屈辱を回避することもできる。
バイデン氏は、超党派合意を実現できる現実主義者として自らを売り込んできた。今こそそれを証明する時だ。ウクライナとイスラエルをめぐる問題は政治的緊急事態であり、米国の最高司令官たる大統領は合意達成に必要なことを成し遂げなければならない。



