みなさんは、世の中のちょっとした変化に敏感でしょうか。
数字に強い人は、ちょっとした変化に「違和感」を感じ、自分で仮説をたてて、その理由を数字で考えていきます。
経営コンサルタントとしてこれまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施してきた平野薫氏は、①世の中の事象に違和感を持つ→②違和感にフォーカスする→③自分なりに仮説を立てる→④数字で根拠を分析し検証する→⑤人に話したりブログに書いてアウトプットする、という一連のルーティンを日々継続して行うことが数字に強くなるコツだと言います。まずは、「違和感」を放置せずフォーカスすることが大切なのです。
本連載では、「世の中のふとした疑問を数字で考えるエピソード」が満載の話題の書籍『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』から一部抜粋し、数字に強くなるエッセンスをお届けします。

なぜ駅前の古びた靴屋さんはお客さんが来ないのに経営を続けられるのか?Photo: Adobe Stock

お客さんのいない駅前の古びた靴屋さんが生き残っている理由

 一等地の駅前にある古びた靴屋さんを見かけたことはありませんでしょうか?

 靴屋さんに限らず、昔ながらの衣料を扱っている洋服屋さん、宝石屋さんなど、ほとんどお客さんが来ていないのに長年一等地に所在している小売店を見かけます。

 持ち家で従業員は家族だけだとすると、運営コストはそれほど掛かっていないと思われますが、店主一家の生活を支えるほどの収入があるとは思えません。ほとんどお客さんが来ないのになぜこのようなお店は営業を続けられるのでしょうか?

駅前に残り続けているということは、本業以外で収入があるはず

 一つは、収入の柱は別にある可能性が高いということです。

 現在のようにチェーン展開する専門店やショッピングセンターが少なかった時代は、個人が運営する小売店で買い物をするのが一般的でした。当時稼いだお金をうまく運用して本業以外の資産運用が収入の柱になっていることがあります。埃を被った在庫の奥には株価チャートが映し出された複数のモニターが並んでいるということもありえます。

 また駅前の一等地という資産価値が高い土地を担保に借入をしてアパート経営をしているということもあるでしょう。

 私の家の近所に昔ながらの米屋さんがあります。現在の米関連収入は精米所運営くらいですが、かつての倉庫跡地に大きなアパートを構え、毎日優雅に犬の散歩をしています。ある植木屋さんは、植木事業は小規模ですが、かつて植木を栽培していた土地を老人介護施設に貸していて月百数十万円の収入があるということです。

 このようにお客さんがほとんど来なくても、他のルートで十分な生活費を確保しており、本業での収入がなくてもやっていけるケースが多いです。

 ちなみにかつての蓄積や事業用の土地を活用した資産形成が十分にできなかった方は、だいたい駅前の土地を売却し、別な仕事をしているケースが多く、ずっと駅前の一等地で儲からない小売店をしている方は他の収入があると思って間違いありません

お店を続けているのは相続税対策?

 もう一つ、儲からなくてもお店を続ける理由があります。

 それは相続税対策です。

 一定の要件を満たす「店舗併用住宅」の敷地については「小規模宅地等の特例」という制度が活用でき、土地の相続において最大80%の節税が可能です。

 平成27年からは、遺産の基礎控除額が引き下げられ、実質的に相続税の増税が行われました。そのため富裕層はいかに相続税を減らすかに四苦八苦しています。

 資産形成に成功した店主の場合、資産総額はそれなりに増えており、何といっても一等地にあるお店の土地の評価額が数十年の間に高騰しているため、多額の相続税を支払う必要があります。

 国税庁の資料を見ると、課税価格の合計が2億円、配偶者と子どもが2人の場合、3人合計で2700万円の相続税が発生します。しかしその遺産が「店舗併用住宅」であれば、評価額が2億円×0・2=4000万円となり、基礎控除の範囲に収まります。相続税申告書を提出する必要はあるものの、本来2700万円発生するはずの相続税は発生しません

 このような相続税の観点からお客さんが全く来なくても営業をする意味があるわけです。

 現在では、前述のように昔から営業を続けている古びた小売店だけでなく、最初から相続税の節税を意識した建設やリノベーションも増えています。富裕層は上がっていく税率に対して、様々工夫をして節税をしているわけです。

なぜ駅前の古びた靴屋さんはお客さんが来ないのに経営を続けられるのか?イラスト/春仲萌絵

(本原稿は、平野薫著なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?を抜粋、編集したものです)