みなさんは、世の中のちょっとした変化に敏感でしょうか。
数字に強い人は、ちょっとした変化に「違和感」を感じ、自分で仮説をたてて、その理由を数字で考えていきます。
経営コンサルタントとしてこれまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施してきた平野薫氏は、①世の中の事象に違和感を持つ→②違和感にフォーカスする→③自分なりに仮説を立てる→④数字で根拠を分析し検証する→⑤人に話したりブログに書いてアウトプットする、という一連のルーティンを日々継続して行うことが数字に強くなるコツだと言います。まずは、「違和感」を放置せずフォーカスすることが大切なのです。
本連載では、「世の中のふとした疑問を数字で考えるエピソード」が満載の話題の書籍『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』から一部抜粋し、数字に強くなるエッセンスをお届けします。

なぜ新幹線の駅は片側だけ発展しているのか?JR宇都宮駅東口 Photo: Adobe Stock

新幹線の駅は片側は賑わっているが、もう一方の側は寂しい

 皆さんは街の散策はお好きでしょうか? あまり外を出歩かないという方や目的の無い行動はしない主義という方もいるかもしれませんが、ビジネスの数字に強くなるためには世の中を見て関心を持ったことを数字に落とし込んで考えることが大切です。

 当たり前ですが経済は社内や会議室の中で動いているわけではなく、社会全体で動いています。自分で世の中を見て肌で感じることが世の中の経済を知り数字に強くなるための一歩です。

 私は出張先で早朝にウォーキングをするように心掛けています。朝の1時間だけでも意識して歩くと、史跡や寺社仏閣、市場、夜明けの繁華街などからいろんなことを学べます。

 以前、駅の周辺、特に地方の新幹線の駅の周辺を散策すると、あることに気づきました。それは“駅の片側は発展しているが、もう一方の側は寂しいことが多い”ということです。

 東北新幹線の沿線の駅を見るとその傾向が特に顕著です。

 宇都宮駅は東口にLRTの駅が新設され小洒落た場所になっていますが、かつては怪しげな飲み屋街が多いイメージで、西口周辺と比べてパッとしていませんでした。仙台駅も西口が賑わっており、最近でこそ東口の開発が進みましたが、私が小さい頃は予備校くらいしかありませんでした。郡山駅は現在でも店舗は西口に集中しています。逆に盛岡駅は東口が賑わっていますが、西口は駐車場のイメージしかありません。

駅は市街地の中心には作らない

 “なぜ新幹線の駅は片側だけ発展しているのか?”

 もちろん都市計画で開発の順番が決まっているということもありますが、理由はそもそも駅を作った当初から片側は多少発展していたからです。

 当たり前ですが、鉄道や新幹線を街の中心に通すと用地買収コストが莫大になりますし地権者の人数も増えるため、手間も時間も掛かります。2010年に新幹線が開通した新青森駅は周辺には病院とホテルが1軒ずつでき、多少住宅も増えてきましたが、それ以外はレンタカー会社しかありません。元々周辺には何もないところでした。

 ちなみにかつて東京の中心は五街道(東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道)の起点であった日本橋周辺で、東京駅のある丸の内周辺は江戸時代には各藩の大名屋敷が立ち並んでいました。明治維新後に諸藩の江戸詰めがなくなりその跡地が陸軍の施設として利用され、その後、新橋駅と上野駅を結ぶ中央停車場として建設されたのが東京駅の始まります。

 大阪駅にしても当初の候補地は堂島でしたが、用地買収コストを抑えるために数軒の民家しかない田園地帯だった梅田周辺に建設されました。

駅前発展のライフサイクル

 元々の市街地の端に駅を作り、市街地側が発展していくのが一般的なようです。

 多くの場合、市役所や城、有名な神社があるエリアがかつての街の中心なので、発展している側にそのような施設が集中しています。その後、元々の市街地側で開発の余地が無くなってくると反対側も開発されるようになります。歴史が古い駅などはそのような変遷を経て全体的に発展していますが、開発された時期の違いから旧市街と新市街のような色合いが出ます。

 都心で新しい線を通すとなると莫大な費用が発生します。東京メトロが副都心線池袋―渋谷間8・9kmを建設する際に購入した1㎡当たりの用地購入費は203万円でした。地下鉄を通す際は地上の地権者との用地交渉や補償の問題が発生するため、基本的には国や地方自治体が所有する道路の下に作りますが、それでも地下鉄の駅の出入り口などある程度の用地買収は必要になります。

 東京駅と有明・東京ビッグサイト駅間で建設が予定されている都心部・臨海地域地下鉄、通称・臨海地下鉄新線では約6・1kmの路線を作るのに、建設費は約4200億~約5100億円。1km当たりの建設費は689億~836億円に達します。

 このように鉄道を通すというのは本当にお金が掛かります。そのために市街地の端に駅を作り、元々の市街地側が発展したわけです。

なぜ新幹線の駅は片側だけ発展しているのか?イラスト/春仲萌絵

(本原稿は、平野薫著なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?を抜粋、編集したものです)