みなさんは、世の中のちょっとした変化に敏感でしょうか。
数字に強い人は、ちょっとした変化に「違和感」を感じ、自分で仮説をたてて、その理由を数字で考えていきます。
経営コンサルタントとしてこれまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施してきた平野薫氏は、①世の中の事象に違和感を持つ→②違和感にフォーカスする→③自分なりに仮説を立てる→④数字で根拠を分析し検証する→⑤人に話したりブログに書いてアウトプットする、という一連のルーティンを日々継続して行うことが数字に強くなるコツだと言います。まずは、「違和感」を放置せずフォーカスすることが大切なのです。
本連載では、「世の中のふとした疑問を数字で考えるエピソード」が満載の話題の書籍『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』から一部抜粋し、数字に強くなるエッセンスをお届けします。

なぜLCCは格安でサービスが提供できるのかPhoto: Adobe Stock

格安サービスのLCC

 皆さん、LCCを利用されたことはありますでしょうか?

 LCCとは、Low Cost Carrierの略で、JALやANAのような既存のFSC(Full Service Carrier)と比較して格安でサービスを提供している航空会社のことです。日本で運航している代表的なLCCとしてはPeach・Aviation、ジェットスター・ジャパン、スプリング・ジャパンなどがあります。

 予約のタイミングにもよりますが、FSCと比較して半額以下という格安運賃で利用することができることから、シェアを拡大しています。

 個人的には、かつてLCCを利用した際に利用予定の便が機材繰りの関係で突然欠航となり、仕事のイベントに遅刻しそうになった経験があったことから、ビジネスでの利用は安心感の大きいFSC、プライベートでの利用は価格差やスケジュールを見ながらLCCと使い分けています。

 ちなみにLCCは遅れやすいというイメージがありますが、国土交通省が発表している令和4年度の定時運航率(全体の便数に占める出発予定時刻以降15分以内に出発した便数の割合)を見ると、ピーチは定時運航率が低いものの、ジェットスターはFSCと遜色なく、スプリング・ジャパンに至ってはむしろ高い定時運航率を誇っていることが分かりますね。

●令和4年度 定時運航率
JAL 定時運航率 92.04%
ANA 定時運航率 90.56%
ピーチ 定時運航率 81.35%
ジェットスター 定時運航率 87.79%
スプリング・ジャパン 定時運航率 94.93%
※「特定本邦航空運送事業者に係る情報」(国土交通省)を基に作成
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001632069.pdf

 LCCはフライトスケジュールがタイトなため遅れが生じやすいというイメージが強いのですが、航空会社によっては必ずしもそうではないということが分かります。

 このように自分のイメージや仮説を数字で検証することで自分の仮説の精度を高めたり、修正することが大切です。何事もそうですが、検証をしない仮説は思い込みとなり、間違った判断の元になってしまいます。

LCCは使用する機材を絞り込んでいる

 さて、LCCは前述のように格安でサービスを利用することができますが、一体なぜLCCは格安でサービスが提供できるのか?

 LCCが格安でサービスを提供できる背景には様々なコストマネジメントがあります。

 まず機材面での工夫があります。

 LCCではボーイングのB737かエアバスA320のどちらかに使用機材を絞り込んでいます。航空機免許は機材ごとに必要なので、同じ機材で統一することでパイロットの教育時間が短縮できます。

 また同様にメンテナンスをする整備士の教育時間も短くて済みます。予備の人員も圧縮でき、結果的に全体の人員を圧縮することが可能です。また予備の機材や部品も様々な機材を抱えている場合と比べて減らすことができます。

 また同じ機材でも座席数がFSCと比較して10~20%多くなっています。利用されたことのある方はご存じかもしれませんが、LCCは座席数を増やすため座席のピッチ幅が5センチ程度狭くなっています。大柄な方には若干窮屈かもしれませんね。またモニターなどの設備もなく必要最低限の機材となっています。

 機材の回転率を上げるために、運航スケジュールがタイトになっており、折り返しまでの時間がFSCよりに短い設定となっています。出発の前の準備が慌ただしくなりますが、限られた機材でより多くの運航をするための工夫がされています。

無料サービスを有料化することで 提供する手間を削減

 サービス面においては、FSCであれば無料である機内食やドリンクの提供、毛布や枕の貸出がLCCでは希望者のみの有料サービスとなっています。これは食材の原価を抑えることだけでなく、サービスを提供する客室乗務員の人数を減らすことにも繋がります。

 また荷物の重量についても制限を設けています。LCCでは、チェックイン時に預ける受託手荷物は基本有料です。機内へ持ち込む手荷物もLCCは7kgまでとFSCの10kgに比べて制限が厳しいです。

 このように荷物の重量制限をしているため、利用者は少しでも荷物を減らそうと努力します。結果的に全体重量が軽くなり、燃費を改善することができます。

 またLCCの予約は基本インターネットでの直販となっており、リアル店舗の窓口はありません。その分、家賃や対応する人員の人件費や代理店への手数料も圧縮しています。

 このようにLCCは様々な面においてコストを削減し格安でのサービスを実現しています。格安でいろんな場所に行ける背景にはこのような涙ぐましい努力の積み重ねがあるわけですね。

なぜLCCは格安でサービスが提供できるのか

(本原稿は、平野薫著なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?を抜粋、編集したものです)

【お詫びと訂正】
本記事初出時、本文4行目に、「 スプリング・ジャパン(春秋航空)」とありましたが、「 スプリング・ジャパン」の間違いでした。お詫びして訂正します。(2024年1月6日10:00 書籍オンライン編集部)