アイデアが思いつかない」「企画が通らない」「頑張っても成果が出ない」と悩む方は多くいます。その解決のヒントになるのは、世の中にある「優れたアイデア」です。『発想の回路 人を動かすアイデアがラクに生まれる仕組み』の著者、クリエイティブディレクター中川諒氏が、「今の時代に、人に評価されるビジネスアイデア」を分析し、そこから学べることを紹介します。

【コンサルが超分析!】世界的ケチャップメーカーの「低コストでブランドを守る」すごい秘策Photo: Adobe Stock

ラベルの色を少し変えるだけで、ブランドを守った

カンヌ映画祭が終わった6月、世界中の広告クリエイターが鎬を削った「仕事」がフランスのカンヌに集まります。広告業界最大の祭典「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」です。記念すべき70周年となった2023年は、86ヵ国から2万6千を超えるエントリーが集まりました。そこから受賞できるのは、そのなかの3%にすぎません。

本記事では、カンヌライオンズ受賞作から、とくに「ビジネスアイデアが際立ったもの」を分析し、「私たちが学ぶべきところ」を解説します。

アメリカに本社をもつ世界最大級の食品メーカー、ハインツが行った「工夫」の紹介です。

世界中で愛されているハインツの主力商品のトマトケチャップは、世界でシェア1位を誇ります。個人宅だけでなく、たくさんの飲食店でも定番のケチャップとして提供されています。

それが故に、飲食店である問題が起こっていました。使い切ったハインツのケチャップのボトルに、違う会社の安価なケチャップがお店によって入れ替えられてしまうということが多発していたのです。

それはいわば「フェイクハインツ」。

そこでハインツは、パッケージラベルのある改善をしました。

それはそれまで白だったラベルのフチの色を、ハインツのケチャップの色に変えるというシンプルなものでした。

ボトルから透けて見えるケチャップの中身の色と、ラベルのフチの色を見比べることで「ケチャップ詐欺」を見抜けるようにしたのです。

そのボトルは飲食店に導入され、SNSでもその話題が広がりました。

僕がアイデアを考えるときの思考フレーム「工夫の4K」に当てはめてみると、以下のようになります。ちなみに4Kとは、改善・解決・解消・回避の4つのKです。

【コンサルが超分析!】世界的ケチャップメーカーの「低コストでブランドを守る」すごい秘策『発想の回路』の「4K思考マップ」に著者が記入

まずうまくいっていない問題を抱えている「現状」、そしてその問題を引き起こしている「原因」、さらに「理想」の状態を整理していきます。

通常はそのあと、現状にアプローチする「改善」、原因にアプローチする「解消」、理想にアプローチする「解決」、そして全く違うアプローチを考える「回避」をそれぞれ考えていきますが、今回は実際に行われた改善策なので「改善」だけ埋めていきます。

現状:飲食店でハインツのボトルに別のケチャップを詰め替えられてしまう
←改善:ハインツのケチャップの色を見分けられるラベルをつくった

理想:自社のケチャップを正しい味と品質で提供したい

原因:お客さんはケチャップの中身を入れ替えられても知る術がない

食品ブランドにとって、飲食店はとても大切な取引相手です。

しかし買ってもらったあと、お店でどう扱われるかまではもちろんコントロールすることはできません。中身を入れ替えられてしまったもののハインツの顔をしてテーブルに居座り続ける「フェイクハインツ」は、ブランドにとっては大きなリスクです。

味も品質も保証できません。中身は自分の商品ではないわけですから。

そして何よりこの詰め替え重要も、ブランドにとっては大きなビジネスチャンスです。

このラベルのデザインに一部色を加えるという、とてもシンプルで予算を抑えた「工夫」で、この問題を周知させたのはあっぱれです。

「素晴らしいアイデア」と聞くと、問題の「解決」だけを評価しがちですが、このような「改善」にも大きな価値があるということを改めて教えてくれた工夫でした。

(本記事は『発想の回路 人を動かすアイデアがラクに生まれる仕組み』を参考に、著者が分析した書き下ろしです)