人生100年時代、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。相続の相談実績は5000人を超えている。大増税改革と言われている「相続贈与一体化」に完全対応の『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】 相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』を出版する。遺言書、相続税、贈与税、不動産、税務調査、各種手続という観点から、相続のリアルをあますところなく伝えている。2024年から贈与税の新ルールが適用されるが、その際の注意点を聞いた。

【一発アウト】税務調査の原因、ワースト1とは?Photo: Adobe Stock

税務調査はどのように始まるのか?

 相続税の税務調査は、コロナ禍の影響でかなり少なかったのですが、2023年から本腰を入れて調査が始まっています。

 相続税の税務調査はどのような感じで行われていくのか、物語形式で紹介していくので、ぜひリラックスして聞いてください。

 あるところに、2人暮らしをしている高齢者夫婦がいました。この夫婦には子どもと孫がいて、夫は子どもや孫の将来のため、毎年110万円の生前贈与をしていました。

 銀行で、子どもと孫、それぞれの名義の預金口座を開設し、無駄遣いをしないように、通帳などは金庫に保管していました。子どもと孫は預金の存在を知りません。また、金額が110万円以下のため、贈与税の申告をしていませんでした。

 このような事例はよくあります。贈与をしても無駄遣いしないように、子どもたち孫たちの口座をA銀行で開設して通帳は金庫にしまっていました。そのことを子どもたち、孫たちは知りません。

 それから時はたち、夫が亡くなり、相続が発生しました。家族は悲しみに暮れる中、相続税の申告書をしっかりと税務署に提出し、納税も適切に済ませました。それから2年後の夏、自宅に1本の電話がかかってきました。電話に出ると、税務署の人からでした。亡くなったご主人の、相続税の税務調査を行いますと言われました。

 調査当日になると、調査官が2人一組で自宅にやってきました。亡くなった夫のことを根掘り葉掘り聞かれました。A銀行にある子どもと孫の預金はどのようにためたのかという質問がありました。先ほどの、贈与のお金のことです。これに対して妻は、夫が秘密の生前贈与で110万円ずつ積み立てをしていたと回答しました。すると調査官は、A銀行の預金は実質的に亡くなった方の財産なので、相続税を追徴課税しますと言ってきたのです。

 孫の通帳や子どもの通帳ではありますが、名義を換えただけでは、生前贈与とは認めらません。贈与をするなら、真実の所有者まで変えなければならないのです。通帳の名前は確かに子どもや孫になっているけれども、真実の所有者は父親のままだと言っているわけです。このような預金のことを名義預金といいます。

 名義人、つまり通帳の名前の人と真実の所有者が異なる貯金のことを指します。相続税の税務調査で問題になるうちの、実に8割から9割は、この名義預金です。ほとんどがこの問題だといってもよいでしょう。税務調査といえば名義預金といわれるくらい、この問題は世の中でよく起きていることです。

 さて、税務署が認める贈与には、2つの条件があります。裏を返せば2つしかないということなので、本日は、ぜひそれを押さえていただきたいです。