ポイント① 両者の認識の合致
名義預金判定のポイントの1は、両者の認識の合致です。そもそも贈与について民法第549条で、贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受託をすることによって、その効力を生ずると定義されています。
つまり贈与とは、あげる人が、あげるという意思を表示し、もらう人が、もらうという意思を表示して初めて成立する契約であると定義されています。従って、税務署の人が何をチェックするかというと、あげた、もらったの約束がきちんとできていたかということです。
それを踏まえて先ほどの事例を見てみます。一番下に『子どもと孫は預金の存在を知らず』とあるので、そもそも孫や子どもはこの通帳の存在すら知りませんでした。ということは、当然、もらうという意思表示はなかったということになります。このことが税務署の人たちに知られると、あげた、もらったの約束ができていないため、これはそもそも贈与の契約とはいえないとして、名義預金と言われてしまうのです。
ここで皆さん、考えてください。今、あげた、もらったの約束のうちの、もらうという意思表示がなかった場合を紹介しました。これは逆のパターンもあります。あげるという意思表示がないパターンです。
親が既に認知症になってしまっているようなケースにおいては、あげるという意思表示がありません。そこで、子どもが自分の通帳に勝手に振り込んだとなると、あげた、もらったの約束ができていないので、贈与の契約ができていないという指摘を受けることがあります。
ポイント② 管理処分権限の移行
名義預金判定のポイントの2つ目は、管理処分権限の移行です。これは、もらった人がそのお金を自由に使うことができたかどうかということが、税務調査で問題になります。税務署の意見としては、贈与でもらったというなら自分で自由に使えて当然であり、自分では使えない状況だったなら、それは贈与とはいえないということです。もらったけれども自分では使うことができなかったという状態は、もらったうちに入らないという考え方を採ります。
例えば、銀行に子どもと孫名義の預金口座を開設し、通帳などを金庫に保管していたとします。この場合、「子どもたちがお金を自由に使えなかった」として、名義預金だと言われてしまいます。従って調査の際は、通帳の管理を本人たちが行っていたかどうかが最も重要視される論点になります。
(本原稿は橘慶太著『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋・追加加筆したものです)