従業員が心身の健康を保つための
さまざまなビジネス

 アメリカの医療費は日本と比べると非常に高額です。例えば、アメリカの中でも医療費が高いニューヨークのマンハッタン地区の場合、虫垂炎で入院・手術したとすると1日の入院費が100万円を超えることも少なくないといいます。

 保険医療が高額になると、自己負担分を支払う個人、保険負担部分を支払う企業、そして保険請求に対して保険適用分を支払わなければいけない保険事業者の三者いずれも医療費の抑制が重要なテーマになってきますが、その中で特に深刻なのが企業です。民間医療保険の掛け金は年々増加の一途をたどっており、その増加分の多くを負担しているのは、雇用主である企業だからです。

 そこで企業が注目したのが、従業員が心身の健康を保つための遠隔メンタルヘルスケア、瞑想アプリ、ビデオ診療など、さまざまな「ウェルビーイング・ソリューション」です。

 増え続ける医療費を抑制するために、そもそも従業員が病気にならないよう心身の健康を保つための工夫が必要とされ、そこに需要が生まれ、ビジネスが生まれる。これが今、アメリカでウェルビーイングビジネスが急成長している土壌になっているのです。

 ではこのような企業がリードするB2Bの市場環境がない日本では、どうビジネスを創造していけばいいのでしょうか?

 体と心、そして社会という三つのウェルビーイングの要素の中で、日本においてビジネスの領域でブレイクスルーとなるのが、企業と顧客の関係性を再定義することで製品やサービスに新しい価値を生み出す「関係性のリデザイン」と私が呼ぶアプローチだと考えています。

 顧客との関係性をリデザインすると、さまざまな業種・業態の企業がウェルビーイングビジネスに参入することが可能になります。

 それでは、「関係性のリデザイン」をするとは具体的にどういうことか?それは、新規事業としてまったく新しい商品やサービスをつくり出すのではなく、自社の既存の商品、サービスに、顧客との関係性を再定義するという視点を加えることで、新しい価値を見いだすことです。

 例えば、こういうことです。

「お酒はウェルビーイングな製品だといえるでしょうか?」

 飲み過ぎると、肝臓や心臓、消化器、脳の疾患につながり、睡眠障害やうつ病などの心の病を引き起こすこともあります。もちろん、リラックスやストレス発散といったプラスの効果もいわれてはいますが、それらを差し引いても体に悪いという側面が強調されがちではないでしょうか。しかし、ある視点を加えることでお酒は人々をウェルビーイングにするものだといえるかもしれません。