中小企業のほうが取得しやすい。
短期間で経営改善できる

――具体的に教えてください。

 BIAアセスメントは、5つの評価指標に分類されます。(1)ワーカー、(2)コミュニティ、(3)エンバイロメント、(4)ガバナンス、(5)カスタマーです。おのおのに、細かくチェック項目があります。このうち、(3)エンバイロメント(環境)については、意識的に環境保全の経営を実践する必要がありますが、他の4つの項目は、中小企業が存続していく上では、普通に必要なことが多いと思います。

 例えば、(1)ワーカー(従業員)の指標ですと、「従業員や取引先に生活資金を支払っている」とか「正規従業員と非正規従業員に対してヘルスケアを提供している」とか「ワーカーの専門スキルの習得やトレーニングを助成している」とかは、会社の規模によって差はあるでしょうが、普通に実践しているのではないでしょうか。そうしないと、従業員が会社を辞めたり、質の高い仕事ができなかったりするからです。

「オープンブックマネジメントを採用し、従業員すべてが財務データと業務コストにアクセスできる」という項目は、当社は昔からです。売上高や経費を従業員にオープンにすることで、現場で創意工夫をしてもらい、コストを抑え、担当する仕事の利益を少しでも高められるように奨励しています。従業員の頑張りで利益が増えた分は、賞与として還元するようにして、やる気を高めています。

 (2)コミュニティの指標では、例えば「女性、有色人種、LGBTQ、障がいがある人、低所得者など、これまで排除されてきた人たちを採用している」の項目など、雇用者数の少ない日本の中小企業だと高い得点は取りにくいですが、低い比率なりに当社も採用しています。

 (4)ガバナンスの指標は、 (3)エンバイロメントの指標と共に、当社では昔から実践してきた項目が多くあります。「社会的・環境的責任をミッションステートメントに盛り込んでいる」とか「社会的・環境的ミッションの研修を従業員に対して行っている」とか「社会的・環境的パフォーマンスを考慮して、従業員と経営陣を評価している」など、個々の項目を見ると、経営者に意思さえあれば、それほどハードルが高いものではありません。

 (5)カスタマーの指標では、「ネットプロモーター・スコアもしくはその他の方法で顧客満足度を評価している」とか「顧客満足度を一般にも公開している」などは、当社は以前から実践していました。

 いずれも、企業規模が小さいほど、短期間に実践できる項目だと思います。

 当社は2017年と2018年の2年連続でBコープのBest for the Worldを受賞しました。特に、「顧客を通じた地域コミュニティへの貢献」と「安全で健康的な労働環境」の分野で高い評価を得ました。

――確かに、Bコープのサイトにアクセスして、実際にBIAアセスメントの項目を見てみると、意外に達成できそうな感じがします。今日では、いろいろな翻訳ソフトがネットで使えるので、簡単に和訳できますし、Bラボ公認の日本語書籍『B Corpハンドブック』(バリューブックス・パブリッシング刊、 2022年6月)には「クイックアセスメント」が掲載されています。

 そうなのです。当社もそうでしたが、英語による米国機関の認証ということで、ハードルがかなり高いと想定しがちですが、それは思い込みです。規模が小さい中小企業ほど、このアセスメントに合致する経営は実践しやすく、Bコープ認証の取得は相対的に容易です。

 このことを繰り返し強調したいのは、Bコープの考え方に私は賛同していて、この考え方が社会に浸透することが、日本をより良くしていくことにつながると思うからです。アセスメント項目を読んで内容を知ってもらうと、納得いただけるはずです。

 基本は、従業員、地域社会、環境、顧客などすべてのステークホルダーのことを真剣に考えて経営するということです。そうした企業は持続的に成長できる、という考え方です。中小企業がそういう企業に変わっていくための、格好の指針になっています。具体的に何をすればいいかが、示されているのです。

 スタートアップ企業は、ゼロベースから、会社の組織、制度、文化などをつくっていくので、起業家にも、ぜひとも早くBコープについて知ってもらいたい。

 若い起業家はこうしたステークホルダー経営の志向が強い、と感じます。私のところにも時々、Bコープについて聞きにくる方がいます。その中に、「スタートアップの方がBコープ認証取得は簡単なのでは?」という人がいましたが、実際その後その方のスタートアップはBコープ認証を取得しています。