美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。

「ダナエ」レンブラント・ファン・レイン「ダナエ」レンブラント・ファン・レイン 1636年 185×203cm(エルミタージュ美術館) 『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より 

幽閉された乙女の運命やいかに?

ご覧ください! この絵、美しいと思いませんか? オランダの画家レンブラントによって描かれた「ダナエ」という作品です。

──うわ~! とってもきれいですし、なんだかちょっと、ドキドキしちゃうんですが…(照)。彼女は一体何をしているんですか?

少し意味深に見えると思うんですが、この絵はギリシャ神話の一場面を描いたものです。

古代ギリシャにアルゴスという国があり、彼女はその王家に生まれた王女でした。

彼女には兄弟がいなかったため、国の行く末を心配した王は彼女を連れて神託を聞きに行くんです。

すると王は「これからもお前に男児が生まれることはない。ただ、娘ダナエが男児を生むであろう。そして…その男児にお前は殺される!」と言われたんです。

──えー!! …つまり、自分の孫に殺されるっていうことですよね?

そういうことですね! で、それを聞いた王は恐怖を感じダナエを手にかけようとするものの、それはあまりに不憫…。

そこで王様は、ダナエを硬い青銅の塔に閉じ込めてしまうことにしたんです!

──なんと! 王様のすっとこどっこい!!(怒)

その悪口、実際に口にする人初めて見ました(笑)。

さて、塔に閉じ込められたダナエですが、それを空から見ていたのは全知全能の神、ゼウスです。ゼウスはダナエの美しさの虜になり、彼女と関係を持ちたいと思います。

しかし、彼女は青銅の塔の格子の向こう…。そこでゼウスは、自らの体を金色の雨に変えて格子をすりぬけ、彼女の元になだれ込み目的を完遂しましたとさ…、というお話です。

──うわ~。なんだか官能的なお話ですね! そうなるとこの絵のシーンは…。

ちょうど空から金色の雨であるゼウスが降り注ぎ、ダナエがその光に照らされているところですね。

画面内に雨自体は描かれていませんが、ダナエの美しい体は光に照らされて、金色の不思議な雨に対して手を伸ばしているようです。

ちなみに後ろの侍女も不安そうに照らされた空の方を見上げていますね。

──ほんとです! そう思うと、とっても臨場感のある絵ですね! でも、レンブラントって、あの集合写真の人ですよね? 彼はこういう絵も描くんですか。

はは、集団肖像画のことですね(笑)。これは意外と知られていないんですが、レンブラントは当初、こういう物語を描く画家になりたかったと言われています。

ただ、オランダでは物語画はあまり需要がなかったため、肖像画家に転向していったんです。

だから、この絵も物語画だし、ヌードだし、そもそも縦横約2mと大きいし、ということで長らく売れずにレンブラントの手元に残っていたそうですよ。

──へ~。こんなにきれいなのに売れ残っていただなんて不思議です! 僕なら二束三文まで値切り倒して買い上げますな!

ご…極悪ですね…(汗)。

(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)