美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。
恐るべき目力を見よ! この少女は一体誰?
さっそく作品をご覧いただきましょう。どうですか、この目力! すごいと思いませんか?
──ほんとですよね、正面を向いてじっと見つめられているわけでもないのに…。ふとした拍子に振り向いて目が合ったような、そんな瞬間の出来事なのに目が離せなくなるような…。
そうですよね、そしてこの小さく開かれた口がなんとも言えませんよね。何か言いかけてるのか、言い終わった後なのか…私たちの想像は尽きません。
──なるほど、どちらにも取れるんですね。…ちなみにこの女性は誰なんですか?
それがわかっていないんです。
──え!? わからないんですか?
そうなんです。過去にこの絵をモチーフにした歴史小説『真珠の耳飾りの少女』が発表されたとき、彼女はフェルメールの家に仕えるお手伝いさんという設定でした。
その後、その小説は映画化され、アカデミー賞にもノミネートされたことから有名になってお手伝いさん説が広まりましたが、あれはあくまでも絵に着想を得たフィクションの物語。実際にはフェルメールの娘や奥さんなど、いろんな説があるんです。
──へ~、このキリッとした感じがかっこいいけど、家族を描くにしてはちょっとかっこよすぎるような気もしますね…。
お、鋭いですね! そこでもう一つの可能性があるんです。これは「トローニー」ではないかとも言われているんです。
──トローニー? なんですか、それ?
トローニーとはもともと、大きな作品を描くための部分習作として描かれた「とある人物の肖像画」みたいな、モデルのいない肖像画のようなものです。
──へぇ~、そんなジャンルがあるんですね! でも誰かもわからない肖像画なんて見たいと思う人がいるんですかねぇ?
え? 私たちもこの誰かもわからない絵をわざわざ見に来ているじゃないですか(笑)。
──あ、そっか(笑)。
習作といえども、素晴らしい絵なら作品として販売できますからね(笑)。
トローニーは特定の人物でないため、現実を生きる人間のような臭みがなく、なんならより美しく描けるのかもしれません。
また、もう一つこの作品がトローニーだと言われるゆえんがあります。彼女には何かが欠けていると思いませんか?
──え! 何かが欠けている…? う~ん、思いやりとか?(汗)
残念ながら精神的なものではありません(笑)。眉毛ですよ。
──あ! ほんとだ。この子、眉毛がない…。
これが本当に誰かの肖像画だったら、きっと眉毛もきっちりと描いたことでしょう。でも、眉毛を描かなかった。つまり誰かに似せているわけではないという可能性は高まりますよね。
──なるほど…。だからブラウニーと…。
トローニーです。わかって言ってますよね?(笑)
──てへっ(笑)。
(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)