美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。

受胎告知 レオナルド・ダ・ヴィンチ『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』

21歳から天才のオーラ!「科学者の目」で描くダ・ヴィンチのデビュー作

この作品は、21歳頃のダ・ヴィンチが単独で描いた実質的なデビュー作と言われる「受胎告知」です! どうです? もう天才のオーラが出ていると思いませんか?

──21歳でこの作品ってすごいですね! 落ち着きがあるというか神々しいというか…。これは何のシーンなんですか?

受胎告知は、聖母マリア様が大天使ガブリエルのお告げによってイエスを身籠るというシーンです。

──お告げで身籠る! なんかさっきからのギリシャ神話もキリスト教も冷静に聞くとぶっ飛んでますね(汗)。

まあ昔の話ってそんなものだと思いますよ。仏教でもお釈迦様はお母さんの脇から生まれますしね!

──え! そうなんですか!? なんならそれも気になりますが…。

まぁそれはまたの機会にしましょう(笑)。それにしても本当に静かで美しい絵です。ガブリエルは左手にマリア様の純潔を表すユリの花を持ち、右手は祝福のサインを示しています。

──あ、祝福のサインなんですね。元気のないピースなのかなと思ってました(汗)。

確かにそうにも見えますね(笑)。そして、天使の羽がすごくリアルだと思いませんか? 骨がきちんと通っているのがわかるというか…。

──はい、確かに。なんだかほんとに飛べそうな気がします。

ですよね! 実はこれも当時にしては珍しいことなんです。それまでの天使の羽は右のフラ・アンジェリコの絵のように美しいけれど「この羽で飛べそうか?」と言われたら微妙なものばかりでした。

受胎告知 フラ・アンジェリコ『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より

──どうしてですか? …みんな下手だったんでしょうか?(汗)

いえいえ、簡単に言うと表現したいものが変わったんです。ルネサンス以前の絵では神様や天使はその神々しさを表現することが大切で、「現実的にどうなのか?」という観点は二の次でした。ただ、ダ・ヴィンチは科学者のような目線を持った画家だったので、しっかりと「羽」というものを観察して描いたんだと思います。

ちなみにマリア様の表現も素晴らしいんですが、美しく、気品があって、突然妊娠を告げられたのに、不必要に怖がっていないように見えますよね?

──確かに…。現実世界で起こったら多分走って逃げますよね…。

ほんとに(笑)。だけど、それが神様の母としての威厳なんでしょう。そのあたりの表現力もさすがダ・ヴィンチですね! 最後に画面の一番右側にベッドが描かれているのに気が付かれましたか?

──ほんとだ、ちょっとだけ見えていますね…。なんか意味があるんですか?

もちろん! ポイントはベッドがきれいに整えられていることです。これがもしぐちゃぐちゃに乱れていたら、お告げで身籠ったと言いながらも、「もしかするとベッドを使ってできた子なのでは?」と思わせます。

だから、こうしてきれいに整えてあることで、「ベッドを使ってできた子ではないんですよ」と伝えることができたんです!

──え~! そんなことまで考えられていたんですか! ほんと絵画って深いですね!

(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)