今年1月以降、新NISAが導入され、お金の本が売れに売れている。だが、マネー本も玉石混交だ。どんな本から読んだらいいかわからない人も多いだろう。そんな人たちにおすすめなのが、全米ベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』だ。本書を「『金持ち父さん 貧乏父さん』(2000年刊)&『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(2002年刊)以来の衝撃の書!」と『人生で読んでおいた方がいいビジネス書75冊』の中で絶賛しているのが「ビジネスブックマラソン」の土井英司編集長だ。今回は3万冊を読んできた日本随一のビジネス書の目利きである土井氏が「本当に価値のあるマネー本の読み方」をお伝えする。

老後恐怖症の日本人に送る「どうしたら貯金できるのか」への最終回答Photo: Adobe Stock

20年ぶりに衝撃を受けた1冊

 前回、『金持ち父さん 貧乏父さん』(2000年)、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(2002年)以来衝撃を受けた1冊として、ニック・マジューリ氏の『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』(以下、『JUST KEEP BUYING』)を紹介した。

 マジューリ氏は、全米屈指のデータサイエンティストで、パーソナルファイナンスの人気ブログ「OfDollarsAndData.com」の執筆者だ。

 今回は、この『JUST KEEP BUYING』の詳細を紹介しよう。

 本書のデータのほとんどはアメリカを前提にしているため、そこは割り引いて考える必要があるが、考え方としては非常に勉強になる。金融も不動産もグローバル化されている現在、本書で示された傾向は、今後日本にも当てはまると思うからだ。

 本書の教えから、いくつか大事なものをピックアップしてみよう。

株に投資すべきか? それとも貯金すべきか?

 株に投資すべきか? それとも貯金すべきか?

 本書の著者に言わせると、「何を重視すべきかは、その時点の経済状況次第」だ。

「投資資産が少ないなら、貯金を増やすこと(そしてそのお金を投資すること)に注力すべきだし、すでに大きな投資資産があるのなら、投資計画に時間を費やしたほうがいい」。

「予想貯金額と予想投資収益額のどちらが多いか?」と尋ねられて、予想貯金額のほうが多い人は、貯金を増やすことに集中すべきだと説いている。

 もし、読者が今年100万円貯金できる見込みで、証券口座に今、800万円あるけれど、投資利回りが10%だったら(80万円)、今は貯金すべき時だということだ。

どうしたら貯金できるのか?」への明確な答え

 どうしたら貯金できるのか?

 この話をすると、節約系の著者の鼻息が荒くなりそうだが、残念ながら答えは節約ではない。収入を増やすことである。

 本書によると、「個人の貯蓄率を一番大きく左右するのは所得水準」である。このことは、さまざまな研究で実証されているという。

「たとえば、連邦準備制度理事会(FRB)と全米経済研究所(NBER)の研究によれば、下位20%の所得者は毎年収入の1%を貯金し、上位20%の所得者は24%を貯金している。さらに、上位5%の所得者は37%を、上位1%の所得者は51%を貯金している」。

 所得が高くなってくると問題になるのは、「ライフスタイル・クリープ」、つまり、収入が増えたとき、支出もそれに伴って増えてしまう問題だが、本書では、増えた分からどれくらいまでなら使ってもいいのか、明確な答えを示している。

 貯蓄率によっても変わってくるが、ざっくりいえば、ほとんどの人に当てはまる答えは「50%」だそうだ。

 本書ではまた、「贅沢な買い物をするときは、必ずそれと同額の投資をする」ことを勧めている。確かに、これなら投資する習慣がつきそうだ。

「賃貸派」vs「持ち家派」論争

 例の「賃貸派vs.持ち家派」論争に関しても、貴重な意見が述べられている。

「短期的には賃貸派より持ち家派のほうが住宅費に関するリスクが高くなる。(中略)だが、長期的に見ると、この立場は逆転する。賃貸派は今後1、2年間の住宅費は固定できるだろう。だが、10年後の住宅費がどうなっているかはわからない」
というのが著者の意見だ。

 私は以前、ニューヨークに暮らしていたことがあるが、現地で有名なコーコラン・グループの不動産営業マンが、ニューヨークの不動産が上昇し続ける理由として、グローバルマネーが集まることを挙げていた。

 現在の東京や日本の別荘地が、グローバルマネーにより買われていること、世界人口が増え続けていて、富裕層が増えていることを考えれば、不動産が現在の価格で明日買える保証はない。

 以前、海外のアートフェアに行った友人が、著名なアートディーラーに「お金が貯まったら買います」と言ったところ、「君がお金を貯めるのが早いか、アートが値上がりするのが早いか、だね」と言われたが、少なくとも直近約10年に関しては、モノの値上がりのほうが上回ったはずだ。

高齢者がマーケットに参加するとき

 現在、ビジネス書では『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え』(藤本茂著、ダイヤモンド社)が売れているが、高齢化も確実にマーケットに影響を与えている。
『JUST KEEP BUYING』の著者は、こう述べている。

技能や知識は人生を通じて向上する。だが、時間は減っていく。そのため、人的資本は結局、時間の経過とともに減っていくことになる。この人的資本の減少に抗うための唯一の手段が投資だ

 この原則に従うなら、今後、人的資本の減少に抗おうとする高齢者がマーケットに加わり、マーケットが盛り上がるだろう。彼らは株式であれ、不動産であれ、当然のようにグローバル市場に投資をするはずだ。

 現在のアメリカや中国の状況を見ている限り、調整局面はあると思うが、大きな傾向は変わらないだろう。

ロバート・キヨサキが語る「資産」とは?

 資産家は、目先の価格の上下動(キャピタル・ゲイン)よりも、毎年いくらの配当が得られるのかを気にする(インカム・ゲイン)。彼らは、長期的にはインフレが進むことを知っていて、ただひたすら買い続ける(JUST KEEP BUYING)のだ。

 小さな利ざやを狙って頻繁に売買をする人は、結局勝ったり負けたりして、資産が増えない。そうこうしているうちに、本当に価値ある資産が高騰して買えなくなる。

『金持ち父さん 貧乏父さん』の著者、ロバート・キヨサキによれば、資産とは「あなたのポケットにお金を入れてくれるもの」のことを言うが、お金持ちはこれをひたすら増やすことを考える。だから『JUST KEEP BUYING』なのである。

 タイトルの『JUST KEEP BUYING』は、要するにドルコスト平均法のことを指すのだが、なぜこれが投資の正解なのか、なぜ個別株を買ってはいけないのか、本書には詳しい説明が書かれているのだ。