健康診断や予防接種を
受けることが利用の要件

(2) 「健康増進のための一定の取組」とは?

 世界保健機関(WHO)では、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な体の不調は自分で手当てすること」をセルフメディケーションと定義付けている。セルフメディケーション税制は、国民に健康づくりを促し、市販薬を利用してもらうことで、医療費を適正化することを目的につくられた優遇税制だ。

 医療経済学の研究では、予防をしても医療費削減にはつながらないことは明らかになっているのだが、国がつくる医療政策は、なぜか予防と医療費削減をひも付けていることが多い。

 そのせいで、セルフメディケーション税制も、単に市販薬を購入しただけでは申告できず、個人が「健康の保持増進および疾病の予防に関する一定の取組」を行っていることが利用要件となっている。

 その内容は、病気を早期に発見するための健康診断を受けたり、感染症を予防するためのワクチン接種を行ったりするもので、次の6つが挙げられている。

1. 健康保険組合などが行う健康診査(人間ドック、各種健診など)
2. 市町村が健康増進事業として行う健康診査(骨粗しょう症健診など)
3. 予防接種(定期接種、またはインフルエンザの予防接種)
4. 勤務先で実施する定期健康診断(事業主検診)
5. 特定健康診査(メタボ健診)、または特定保健指導
6. 市区町村が健康増進事業として実施するがん検診

 上記の取り組みの中で、いずれか1つを行った上で、1年間に購入した市販薬が1万2000円を超えると、初めてセルフメディケーション税制は利用できるようになる。

 とはいえ、手続きは簡単だ。2022年分の申告から手続きが簡素化され、取り組みを行ったことを証明する書類の添付は必要なくなっている。「セルフメディケーション税制の明細書」の取り組み内容を記載する欄に、自分が行ったものを書いて提出するだけでよい。

 また、この取り組みを行うのは、申告者本人だけで良い。セルフメディケーション税制も、医療費控除と同様に同一生計の家族の市販薬の購入費用をまとめて申告するが、上記の取り組みは申告する人の要件だ。家族全員が行っていなくても申告できる。

 また、セルフメディケーション税制も、医療費控除と同様に所得の高い人が申告したほうが、還付金は多くなる可能性が高い。家族の中に納税している人が複数いる場合は、所得を比べて、多い人が申告するようにしよう。

 ただし、セルフメディケーション税制と医療費控除は併用できず、どちらか一方しか申告できない。

 医療費控除でも市販薬を医療費として計上できるので、昨年1年間に入院や手術をして、医療費が10万円を超えたという人は、通常の医療費控除を利用したほうが還付金は多くなる可能性が高い。いったん申告書を提出するとやり直しはできないので、申告前に控除額を大まかに計算し、より多くの還付金を取り戻せる制度を利用するようにしよう。