インドネシアの自動車市場では、中国のBYDが参入するなど電気自動車(EV)が注目されている。これまではトヨタ自動車を筆頭に日本ブランドが圧倒的シェアを占めたが、EV販売のトップに韓国Hyundaiが躍り出るなど、地殻変動が起きつつある。人口2億7000万人の巨大市場で、中国と韓国のEVは、日本車のシェアを奪うほどの力はあるのか? 現地ディーラーへの突撃取材から検証する。(ジャーナリスト 竹谷栄哉)
中国BYDのEV販売店に
政府高官や富裕層が駆け付けるわけ
中国の電気自動車(EV)メーカー最大手BYDの、ジャカルタにある正規ディーラー店を訪れた。全面ガラス張りの3階建ての建物で、スタイリッシュな雰囲気が漂う。駐車場には政府高官の専用ナンバーを付けた車やBMWなどの高級外車が並ぶ。
「当店は年明けにオープンしたばかりですが、すでに2000台が売れました。2カ月でこの契約台数は絶好調です」。店長は得意げにこう話す。
BYDは現在、インドネシア国内で小型車の「DOLPHIN」、SUV(多目的スポーツ車)の「ATTO3」、セダン「SEAL」の3車種を販売している、価格はそれぞれ4億2500万ルピア(日本円で約403万円)、5億1500万ルピア(同約488万円)、6億2900万ルピア/7億1900万ルピア(同約597万円/同約682万円)。インドネシア国民にとっては高級車である。
家族連れで来店していた男性に声をかけてみた。材木商を営むスディオノ氏(仮名)は、「EVは環境に優しいし、走行音が静かでいいと聞いている。何より、近代的な内装や設備が気に入ったよ」と購入に前向きな様子だった。
BYDはインドネシアで年産15万台のEV工場の建設をする計画で、投資額は13億ドル、24年内に着工する見通し。店長は「インドネシアでの生産が始まれば、もう少し価格は下がるだろうし、さらにお客がたくさん来るはずです」と自信満々だった。
インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)の統計によると、23年に最も売れたEVは韓国の現代自動車(Hyundai)の「IONIQ 5」である。BYDを後にしたその足で、Hyundaiのディーラーにも行ってみると、さらに度肝を抜かれた。