価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

自分がファシリテーター兼参加者となってアイデアを生む「ひとりワークショップ」という方法(2)Photo: Adobe Stock

アイデア側からと、結果側からの両方から考えていく

 さて、前回までで「ひとりワークショップ用シート」で2つの穴埋めが終わりました。

 ここで、またファシリテーターの出番です。

「次は、60周年の施策アイデアからの直接的な結果である『1次的成果』を埋めるか、それとも施策アイデアそのものの「手段」と「目的」を埋めるのか、どちらもありますねえ」

 と、心の中でつぶやきながらワークシートを眺めます。

 これも、皆さんそれぞれ、やりやすいやり方を見つけていただくのがいいのですが、私は、こういうときに「トンネルを両方から掘る方式」で行います。

 つまり、手段と目的のアイデア側からと、結果側からの両方から考えていわけです。といっても、ひとりブレストで脳はひとつなので、目を閉じて考えてみて、思いつかなかったら、逆を考えてみる、ということを繰り返していきます。

 手段から考えてみると、周年施策ですから、やるべきことはいくつかあります。その中からヒントになりそうなものはありそうです。

 たとえば、過去60年の歩みを振り返るということです。

 これを、課題を通して考えてみるとどうでしょうか。会社の沿革を見ると、商品の発売や事業所開設や市場での結果が並んでいるだけですが、その裏には挑戦者たちがいるはずです。そこにフォーカスを当てて、60年を振り返ってみるのは面白そうです。

 というわけで手段に記入してみます。「過去60年の歴史を、当社の挑戦者たちの思いや活動を通じて振り返ること」などでしょうか。

 すると、目的はすんなりと書けるのではないでしょうか。

 たとえば「価値創造は、みんなではなく、ひとりの思いと第一歩から生まれるということに気づく」というものはどうでしょうか(下図)。

 さて、穴埋めしないといけないことは、あとひとつになってきました。改めてワークシートを眺めながら、この結果の部分をどう埋めていくか考えます。

 いかがでしょうか。後は自然と埋まると思いきや、なかなか難しいのではないでしょうか。

 前後両方と、きちんとつながるようなことを埋めないといけないので、最後が難しくなるケースが多いのです。

 この例では、「気づきが生まれるというアイデア」では、何かしら明確な成果には結びつきづらいということがわかります。最初に設定した課題が大きすぎるということもあるので、そこは後で検証するとして、まずはこのシートを完成させましょう。

上下のつながりが悪くなったときの対処法

 上下どちらかとつながりが悪くなってしまうとしたら、下との整合性をつけるほうを優先させるようにします。

 なので、2次的成果の「(社員の挑戦から)新しい製品やサービスが次々と生まれること」に結びつくために必要なものとして、「一人ひとりのチャレンジを支えていく様々な仕組みや取り組みが生まれる」と置いてみます。

 これで、ひとまずワークシートが完成しました(下図)。

 改めて、見てみましょう。アイデアと結果(1次的成果)のところに少し断絶があって、自然発生的には、この結果にはつながらないように思えます。

 とはいえ、方向性としては悪くはなさそうなので、合わせ技で一本狙うような形で60周年にかこつけて行える施策を具体的に考えてみます。

 たとえば、
 ・あの商品の「最初の一歩展」(歴代のヒット商品の「最初の一歩」となった、ひとりの社員の発想や思いにフォーカスを当てた展示を行う)
 ・早すぎた! 飛びすぎてた!? 残念ながら市場に残らなかった挑戦の軌跡(斬新なアイデアだったが、うまく市場定着できなかった商品を60年分まとめて振り返るコンテンツ)

 など、このシートで導いたところから、さらに一歩具体的な施策アイデアに展開していくことができます

シートを使ってアイデア出しをするメリット

 このようにシートにしてアイデア出しをするメリットは、アイデアの分岐をいくつかのレイヤーに分けることができることです。そもそもの出発点の課題設定や目的を変えてみましょう。

 たとえば、「この会社に入ってよかった、と過去の自分の選択が間違ってなかったと思ってもらえるような社内に寄与する周年にしたい」といったように。

 そういう背景があったら、まずシートの中央の目的のところから埋めてアイデアを考えていきます。そうすると、先ほどとは、まったく違ったアイデアが出てくることでしょう。

 このように「ひとりブレスト」をするときは、ワークシートを事前につくってそれに沿ってブレストをすることが大事です。

 ワークシートは、シンプルなものがまずは取り組みやすいでしょう。どんな問題に対して、どんな状態を目指したいかという2つだけでもいいかもしれません。

 本格的にアイデアを構築していくのならば、第2章でお伝えした「アイデア分解構築シート」を使うのがおすすめですが、そこまで本格的ではなく、まずは頭を巡らせるという意味では、シンプルなワークシートをつくってみましょう。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。