価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。
目の前の課題に「どう取り組みはじめるか」
アイデアをつくっていくときに、私が大切にしている話をしたいと思います。それが、目の前の課題に「どう取り組みはじめるか」ということです。
私は特に怠惰な人間なので、取り組まなければいけないタスクがありながらも、なかなか取り組めないことが多くあります。やらなければいけない、とわかっているからこそ、不機嫌になってしまったりストレスが溜まってしまうことも日常茶飯事。平たく言えば「やる気」のコントロールがなかなかうまくできませんでした。
そんな私が変わったきっかけが、あるときに読んだ詩人の谷川俊太郎さんのインタビューでした。詳しい内容までは覚えていないのですが、「谷川さんは、どのように詩をつくるのですか」という質問に答えているものでした。
私は、頭の中に明確なイメージができた上で一気に書き上げるものだと想像していたのですが、谷川さんの答えは違いました。
まず、パソコンの電源を入れて、テキストを書くソフトを立ち上げて、そして「詩のはじまりになりそうな言葉を、一行とか半行とか出てきたら、そこからはじめられる」といったことをおっしゃっていたのです。
「アイデアの全体像が浮かんだから、はじめる」のではない、ということを天才だと思っていた人も実践している。とにかく、はじめることが大事なんだ、とわかったのです。
本連載の中でも「思考を止めないことが大切」と言ってきましたが、アイデアをつくるときも、まずは何でもいいから「思い浮かんだことを手を動かして言葉にする」ということをはじめることにしました。
やる気が出ないときも、まず手を動かしてみることにしたのです。
それが、前回と前々回でお伝えした「アイデア分解構築シート」です。とにかく、まず、頭を動かし、手を動かしてみるのです。
脳は動かしはじめて、やがて、やる気が出てくる
脳科学的にも、やる気というものは、いくら待っていても出てくるものではないようです。脳は動かしはじめて、やがて、やる気というものが出てくるそうです。
そのためにも、うんうん唸っているよりも、頭と同時に手も動かしてみましょう。与件を整理するところからはじめてもいいですし、ランダムに仮説を出すところからはじめるのもよいでしょう。
アイデア発想のいちばんの極意は、まず動きはじめることだと思います。
とは言え、私もまだまだ苦手なことです。「どう取り組みはじめるか」について、読者の方のいい方法があれば、教えていただきたく思います。
(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。