欧州石油メジャー、上場先移転は問題解決にならずPhoto:Bloomberg/gettyimages

 投資家が化石燃料を非難していることは、欧州石油メジャーがバリュエーションの低さに苦しんでいる原因にするにはうってつけだ。だが、米国に行けば問題が解決するわけではない。

 欧州石油大手は上場先の米国移転について公然と口にしている。

 英石油大手シェルのワエル・サワン最高経営責任者(CEO)は直近の決算説明会で、2年間の再建計画の結果2025年末までに米同業他社とのバリュエーションの差が縮まらなければ、米ニューヨーク市場への再上場を検討する可能性があることを示唆した。時価総額がシェルに次いで欧州エネルギー業界2位の仏トタルエナジーズは、上場先の米国移転を検討して9月までに報告するようパトリック・プヤンネCEOが取締役会から求められている。一方、今週の決算説明会でより控えめなトーンだった英石油大手BPは、積極的に新天地を模索していない。

 問題は、石油・ガス会社のバリュエーションの開きが欧州と米国の間で一向に縮まらないことだ。平均すると、予想株価キャッシュフロー倍率は欧州勢が米国勢を45%下回っている。

 株主還元をここ数年増やしてもテコ入れには不十分で、この差はおおむね21年前半の水準にとどまっている。BP、シェル、トタルエナジーズは今年、配当と自社株買いを通じて現在の時価総額の平均11%を還元することを約束している。

 バリュエーションの低さは、特にM&A(合併・買収)の際に欧州エネルギー大手にとって大きなデメリットとなる。米石油大手エクソンモービルが米シェール大手パイオニア・ナチュラル・リソーシズに対してしたように、米国資産を株式で購入することは、バリュエーションがこれほど低いと難しい。

 欧州石油株が値引き商品のかごから抜け出せない理由もなくはない。総じて欧州株のバリュエーションは米国株より低い。だが、エネルギー大手の割安ぶりは株式市場全体と比べても深刻だ。

 欧州の株主や政策当局は、化石燃料産業に対して米国ほど友好的ではないと考えられている。シティのアナリスト、アラステア・サイム氏は「欧州の投資家が、石油・ガス会社はさらに成長すべきだという考えを支持しているとは思えない」と指摘した。

 欧州で一段と投資家離れが進むリスクがあることが、米国上場の追い風となっている。フランスは来年から、ISR(SRI:社会的責任投資)ラベルを取得したファンドが、生産拡大を計画している石油・ガス会社の株式を保有することを禁止する。ラベル取得は任意だが、2028年まで化石燃料の生産量を年2~3%増やしたいトタルエナジーズは影響を受ける可能性がある。

 米国に上場しても解決しない問題は他にもある。投資家はエクソンモービルと米シェブロンの株主還元の方が持続可能だと信じているようだ。新型コロナウイルス流行下の20年にシェルとBPが現金を確保するため減配したのに対し、米国勢はしなかったことが一因だ。

 また、欧州勢は気候変動対策の公約で増産を制限されているため、化石燃料の販売量を増やして配当に充てるのは難しいだろう。バーンスタインの推計によると、現在から2030年までに米石油大手が上流生産を年6%増やす見通しである一方、欧州勢はわずか0.2%増にとどまる。

 シェールオイル事業の比率が低いことも影響している。シェルは21年にシェール資産を米コノコフィリップスに売却した。BPは中堅シェール事業の米BPXエナジーを傘下に持つ。米大手はシェール事業者向けの税制優遇を受けられる上、規模もはるかに大きい。取得したシェール資産が早期に生産を開始すれば、エクソンモービルとシェブロンはエネルギー高のさなかで供給を増やし、利益を株主に還元できる。

 BPとシェルは、トレーディング活動を明らかにすれば評価が上がるかもしれない。両社は世界最大のエネルギー・トレーダーで、スイスのビトル・グループやトラフィギュラなどの商品(コモディティー)商社大手より売買高が多い。

 バーンスタインのマネジング・ディレクター、アイリーン・ヒモナ氏によると、トレーディングがシェルとBPの利益の25%を占めた年もある。利益は安定しておらず、また秘匿性が高い場合もあるため、両社がこの事業について公表したいことは限られており、利益のかなりの部分が「秘匿でディスカウント」されていると同氏は話す。

 化石燃料からの脱却を急ぐ欧州の姿勢が域内石油会社の評価に影響しているのはおそらく確かだろう。だが、バリュエーションの開きの一部は、事業モデルの違いにも起因している。欧州ほど化石燃料に厳しくない米国に避難しても、それだけで欧州エネルギー大手が米国並みの値札をつけてもらえるわけではない。

(The Wall Street Journal/Carol Ryan)