母に起こった変化
母は変わらずホームで過ごしています。
変わった事と言えば食事だけ。その時間だけチューブをつないで、口を開ける事なく栄養を胃から。
美味しいという事を忘れないように、口の筋肉が衰えないように、口からの刺激もしていただいてます。
ただ、発語が減りました。
まっすぐ僕を見つめてくれます。
でも反応は少なくなりました。
笑って「ようハゲてェ」と呟いてくれる時が一日でも早く戻るように祈りながら頭を差し出します。
桜の時期も過ぎ、ハクモクレンもとうに散ってしまった庭から、藪椿がポタポタと道に落ち続けます。
帚を止め、石段に散り広がるおびただしい赤を見てて、思い出したのが、裸足で踊る母--。
母ちゃん、
良かさ、良かさ…
父の亡くなった後認知症を発症した母が、ちょうどこの時期、裸足で真っ赤な藪椿の花を踏み散らかしながら、嬉しそうに踊ってた事がありました。
「足ゃあ後で洗えば良かけん」と言いながら、ペタペタと花びらを踏み散らかしていました。
その後、散らかった花びらを、道脇の溝に掃き落とす母。
赤い花びらは、電光掲示板ならぬ花びらの掲示板のように長々と、溝を流れ落ちて暗渠に消えます。