認知症の母とのエピソードを描いて12万部を超えるベストセラーとなっている『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞)の著者が、
本の中では書ききれなかったその後のことなどを綴る連載の第2回。
今回は、母の胃ろう手術を決断するに至るまでの心境を語る。
胃ろうについて寄せられた
何通もの手紙
「ペコロス」は、小玉ねぎを意味する著者、岡野氏の愛称。コミックエッセイとして描かれた40歳で故郷長崎にUターンした漫画家(62歳)と認知症の母(89歳)の、温かく笑えながらも、どこか切ない家族の物語。多くの人の共感を呼び、NHKでドキュメンタリー番組が放映されるなど、多数のメディアで取り上げられ、実写映画化も決定している。
母は入院しました。
そして翌日すぐに胃ろうの手術が行われました。
待つ間、瞬きもせずジッと息子の頭を見つめる母の横で2時間ほど、Y新聞の取材を受けました。
記者の方が駅前でチャンポンを食べて空港行きのバスに飛び乗る頃、母はベッドに横たわったまま個室を出ました。
手術室ではなく内視鏡室で15分、待つ間もなく造成術は終わり、母の小さく横たわるベッドは小舟のように、白く長い廊下に漕ぎ出て個室に戻りました。何事もなかったように母は僕の頭を見つめています。
家に帰ると何通かの郵便物が届いていて、その中に北海道からの封筒が入っていました。北海道新聞に載った僕の記事の中で、迷ってる母の胃ろうの件へ反応して送られた手紙を新聞社が僕に届けてくれたものでした。
弱ってしまった母親が病院で胃ろうを匂わされ、母親を連れて逃げるように退院した。今、さまざまな工夫をして母親に口から食事をとらせている--。
食事療法やそのために必要なオススメの商品がパンフレット同封で心を込めて紹介してありました。
皮肉にも手術の行われた日に届いた、切々と胃ろうを拒否する手紙。
僕に最後の一押しを
してくれたこと
手紙と言えば、胃ろうの件で一ヵ月弱逡巡してる最中にいただいた、心に残る一通の手紙がありました。